Xin chào(シンチャオ)。サービス開発部のBacklog課に所属している@vvvatanabeです。先日、会社の出張でベトナムに3日間滞在する機会があり、夕飯の締めに食べたフォーが忘れられないほど美味しかったため、近所のカルディでベトナム料理の食材を探すのが楽しみの一つになっています。
さて、本記事では、ベトナム出張を通じて得た情報を基に、ベトナムにおけるBacklogの使用状況、ユーザーからのフィードバック、そして今後の改善点や展望について詳しく分析し、レポートいたします。ベトナム市場におけるBacklogの実際の状況に興味を持っていただければ幸いです。
目次
ベトナム出張の目的と背景
オフショア開発で「現在」最もホットなベトナムでのBacklogを知る!
近年、ベトナムは高いIT人材のポテンシャルとコストパフォーマンスの良さから、グローバルなオフショア開発市場で急速に存在感を増しています。このような背景から、ベトナム市場におけるBacklogの使用状況と、そこから見える課題を調査することにしました。現地のIT企業やエンジニアたちがBacklogに対して持つ具体的なニーズや要望を理解することで、グローバル市場向けの製品改善や新機能の開発へと繋げられると考えています。ベトナム出張中には、多様なオフショア開発会社や教育機関との面談を通じて、貴重なフィードバックを得ることができました。
Note:上記の写真はハノイの街角の様子です。私は重度の花粉症持ちですが、ハノイでは花粉の影響を受けず、湿度も高いため乾燥もなく、滞在中は体調がとても良かったです!
ベトナムのオフショア開発市場と日系企業の関係
ベトナムのオフショア開発市場と日系企業の関わりにはどのような特徴が存在するのでしょうか。
ベトナムのIT産業とオフショア開発の現状
経済成長を背景に、ベトナムではIT産業もまた発展を遂げています。特にオフショア開発市場では顕著な進展が見られ、高い英語力と日本語能力を持つ若い労働力が、コストパフォーマンスの良さと政府によるIT教育への投資拡大を背景に、この国をオフショア開発の重要な拠点として位置付けています。ハノイやホーチミンといった大都市では、オフショア開発における活気が特に感じられます。
ベトナムと日系企業の緊密な関係
ベトナムで特筆すべきは、日系企業との密接な関係です。日本のIT企業は、高品質なソフトウェア開発サービスを求め、2000年代の初頭からベトナムに目を向け始めました。言語や文化の違いを克服し、多数の日系企業がベトナムのオフショア開発会社と長期的なパートナーシップを構築しています。ベトナムのオフショア開発会社は、日本の品質基準に沿ったサービスの提供に努めると同時に、日本語教育にも注力しており、これがコミュニケーションの障壁を低減し、プロジェクトのスムーズな遂行を可能にしています。
さらに、日本企業のベトナム進出はオフショア開発だけにとどまらず、現地でのIT教育支援など、様々な協力関係が築かれています。
例. Sun Asterisk社における「ハノイ工科大学と共同でEdTech Centreを開設」
コラム(1):ハノイの交通: 自己組織化による秩序と混沌
ハノイで最も驚いたのは交通事情でした。ハノイの交通は非常に混雑しており、特にピークタイムにはバイク、車、歩行者がごちゃ混ぜになり、車間距離も非常に狭く、ほとんどの時間帯で渋滞が発生しています。車の隙間を縫うように多くのバイクが駆け抜けていく様子は、見ていてもはらはらします。さらに、写真で見るように、このような渋滞中でも歩行者が横断を試みることがあります。
これらの交通参加者は、常に互いの動きを観察し、予測しながら、自分の行動を調整しているようでした。まるで、非公式のローカルルールが存在しているかのように感じられます。例えば、特定の交差点をどう通過するか、どのような状況で優先権を譲るかなど、これらのルールは明文化されてはいないものの、地元の運転手たちによって暗黙のうちに共有され、適用されているようです。これは、自己組織化における局所的な相互作用が全体のパターンを形成していることを示しているように思われます。
ベトナムでのBacklogの使用状況
ベトナムと日本のオフショア開発市場において、Backlogは多くの企業に採用され、重要な役割を果たしています。Backlogの採用状況をインタビューすると、Backlogのプロジェクト管理から開発まで支援するオールインワンな機能が、様々な企業に受け入れられていることがみえてきました。
CodLuck社
CodLuck社はビジネスモデルとしてオフショア開発を採用しており、主要な取引先は日系企業です。これらの取引先がプロジェクト管理ツールとして「Backlog」を頻繁に使用しているため、CodLuck社もそれに合わせてBacklogを利用しています。Backlogは特に開発プロセスで活用されており、中でもGit機能が重宝されています。一方、Redmineには標準ではGit機能が備わっていないため、プロジェクト管理ツールとしてBacklogとRedmineをそれぞれの利点を活かして併用していますが、使い勝手の面ではBacklogの方が優れていると評価されています。また、CI/CD機能の導入にも関心を示していました。
その他にも、エクセルを仕様書や設計書の作成に主に使用していますが、日系企業からの要望によりエクセルファイルでの納品が必要なため、クライアントのニーズに応じて使用しています。この際、ファイル共有のためにBacklogのファイル共有機能が役立っています。
Note:過去にはBacklogが多言語サポートを行っていた際、CodLuck社がベトナム語の翻訳へ貢献していたこともありました。その節はありがとうございます!!
公式サイト:https://codluck.com/ja/homepage-jp/
NAL社
NAL社はビジネスモデルとしてオフショア開発を採用しており、主要な取引先は日系企業です。プロジェクトの約半数で「Backlog」を使用し、特に取引先とのコミュニケーションや開発プロセスにおいてその活用が見られます。BacklogのGit機能を利用しており、CI/CD機能の導入にも関心を示しています。
NAL社は、日本のスタートアップ企業がオフショア開発に積極的に取り組んでいる現状を認識しており、福岡の企業との関係も持っています。また、ベトナムのエンジニアが起業に積極的であり、失敗した場合でも元の会社に戻る文化があること、そしてNAL社自身もそのようなチャレンジを支援しているとのことでした。
興味深いことに、NAL社は自社のIT基盤を独自のスーパーアプリ(多機能な統合アプリ)として実現しており、この点ではBacklogは直接利用していないようです。しかし、Backlogがスーパーアプリのような多機能統合アプリとしての役割を果たせるようになることを望んでいました。
公式サイト:https://nal.vn/
PIRAGO社
PIRAGO社はオフショア開発をビジネスモデルとしているほか、ChatGPTの派生系サービス「pigpt.ai」の開発・運用に注力しています。この企業は、BacklogとそのAPIを積極的に活用しており、開発プロセスの効率化を図っています。具体的には、Backlogに足りないスクラム要素を補完するために、Backlog APIを活用した独自のツール「DevLog」を開発し社内で利用しています。
Backlogは開発だけでなく、バックオフィス業務にも広く使用されており、APIを通じたデータ取得で品質管理やレポート生成を行っています。
その他にも、Git機能の拡充を望んでおり、特にCI/CD機能の導入を期待していました。
公式サイト:https://pirago.vn/ja/
Relipa社
Relipa社はオフショア開発を主なビジネスモデルとしており、その取引先の大半は日系企業です。ブロックチェーン技術に強みを持っているとのことでした。開発業務だけでなく営業活動にも「Backlog」を活用しており、これはベトナム国内での営業活動においても珍しいケースです。
特に、カンバンボードを用いて日々のタスクを管理していました。しかし、カンバンボード上でタスクの優先度を視覚的に識別することが難しく、カード上に明示的に表示する機能を求めていました。また、優先度の設定は極端に多すぎると管理が大変になり、少なすぎると区別がつきにくくなるため、適切なバランスを見つけることが課題となっていました。
Relipa社では、Backlogプロジェクト内のタスクから、QAテスターや開発者の作業負荷を予測し、人員の空き状況を判断するために工数の予定と実績を集計しています。また、経理などのバックオフィス業務においては、タスクの承認機能を使って作業の完了を管理しており、この承認機能の充実を望んでいました。
公式サイト:https://relipasoft.com/
VHEC社、TOMOSIA社、VMO社
VHEC社、TOMOSIA社、VMO社の3社は、ビジネスモデルとしてオフショア開発を採用し、その主な取引先は日系企業です。
VHEC社では、顧客の要望に応じてBacklog、Redmine、GitLabなど複数のツールを使い分けています。顧客ごとのプロジェクト管理の要求に柔軟に対応しているようです。
公式サイト:https://vhec.vn/
TOMOSIA社はBacklogのガントチャートの視認性の高さを評価していました。課題として、日本語が苦手な社員もおり、課題やコメントの文章を日本語からベトナム語へ自動翻訳する機能の強化を望んでいます。また、BacklogのAPIを活用してさらなる連携を図り、パートナーとしての関係を深めたいと考えています。
公式サイト:https://tomosia.com/
VMO社では、1300名以上の従業員を抱え、ベトナム国立トップ理系大学の郵政技術大学と連携し特定学士号プログラムを提供しています。
公式サイト: https://vmogroup.jp/
Haposoft社
Haposoft社は、オフショア開発をビジネスモデルとして採用している企業で、その取引先の大多数は日系企業です。現時点ではプロジェクト管理ツールとして「Redmine」を使用しており、Backlogについては今後の利用を検討している段階でした。
Haposoft社では、RedmineのAPIを利用して工数計算を行っており、タスク見積もり、工数グラフの生成、ガントチャートの作成、営業との連携、案件管理システムとの統合など、多岐にわたるカスタマイズを施しています。
RedmineやGitLabの利用を選択している大きな理由の一つは、これらがセルフホスト可能で無料であることです。他の企業も同様の理由でこれらのツールを好んで使用しており、エンジニアが既にこれらのツールに慣れ親しんでいるため、新しいツールの導入に伴う学習コストを抑えることができるというメリットもこれらのツールを選択する大きな理由になっているそうです。
公式サイト:https://haposoft.com/ja
ハノイに拠点を持つ日系企業
ベトナム現地の企業だけではなく、ハノイに拠点を持つ日系企業も伺いました。
Sun Asterisk社とハノイ工科大学
Sun Asterisk社は、ベトナムで最大規模のオフショア開発を提供する日系企業です。ハノイ、ダナン、ホーチミンに拠点があり、所属するエンジニアは1000名を超えています。Sun Asterisk社の特徴としては、ハノイ工科大学のような海外のトップ大学との産業連携による若いエンジニアの育成にあります。Sun Asterisk社による独自のエンジニア教育と日本語授業を学生に提供しています。
2014年から外務省のODAとして始まったHEDSPI(*1)プロジェクトを継承しており、ハノイ工科大学との産学連携における教育事業を通してテクノロジー人材を育成する事に取り組んでいます。
引用元:ハノイ工科大学と共同でEdTech Centreを開設
ハノイ工科大学の学内に、Sun Asterisk社のオフィスが入っており、大学と密接に関わっていることが伺えました。
以下の写真は、提供されている授業を実際に見学させていただいた様子です。
Money Forward Vietnam
日本のクラウド会計を牽引するMoney Forward社のハノイ支社にも伺いました。ベトナム拠点の立ち上げについては以下の公式ブログで詳細に語られています。
同じSaaSという文脈で、業種や規模は違えど、弊社もアムステルダムとニューヨークに支社を展開している背景もあり、拠点開発のリアルな体験談はとても共感できるものがあり参考になりました。
Backlogの機能に関する具体的なフィードバック
ベトナムでのBacklog使用状況に関する調査から、ユーザーからの貴重なフィードバックと様々な改善要望が寄せられました。これらのフィードバックは、Backlogが今後さらにグローバル市場に向けてリーチするための重要な手がかりとなりました。その中の一部を紹介します。
課題
課題管理に関しては、孫課題の追加の要望がありました。課題が多層にネストされると、プロジェクトの構造が複雑化し、管理が複雑になるという問題点があります。しかし、オフショア開発では、クライアントからの要求で大きな機能の開発を親課題として割り当てられ、それに基づく具体的な作業を子課題で管理することが多く、必然的に自分たちで起票する課題は構造化することができなくなるとのことでした。また、タスクに複数名をアサインする機能に関する要望や、追加できる課題の状態を増やしてほしいなどの要望が寄せられていました。
ボード
ボード上でタスクの優先度を視覚的に識別することが難しく、カード上に明示的に表示する機能を求めていました。また、優先度の設定は極端に多すぎると管理が大変になり、少なすぎると区別がつきにくくなるため、適切なバランスを見つけることが課題となっています。タスクのソート機能に関しても、より柔軟な管理を望んでいます。
ファイル
ファイル共有機能に関して、上書きのリスクや、同じ名前のファイルをアップロードする際の警告機能の欠如に関する懸念が示されました。また、オンラインでのファイル編集機能の要望もあり、チームメンバー間でのスムーズなファイル共有と編集プロセスの実現が求められています。
Git
オフショア開発でBacklogのGitホスティングを利用している企業が多く、それに伴いCI/CD機能に関する強い要望もありました。開発プロセスの自動化と効率化を図るため、Backlog内で直接CI/CDを管理できる機能の実装が望まれています。その他、コード検索機能やGitのタグと課題のマイルストーンのシームレスな連携が求められていました。
多言語対応
多言語対応については、基本的に英語か日本語のどちらかを使用できる人が多いので、ベトナム市場向けにはベトナム語サポートの必要性は低いとの意見が多いのが印象的でした。ただし、課題の内容やコメントに関しては、日本語からベトナム語へ自動翻訳をサポートして欲しいといった意見もありました。
コラム(2):ベトナムにおけるお酒の嗜み方と乾杯マナー
現地のIT企業の方々との会食中、日本と比較すると圧倒的に乾杯の頻度が高かったことが印象的でした。現地の方に何故そんなに乾杯するのか尋ねたところ、「会食中に淡々とお酒を飲むのは寂しい」とのことでした。ベトナムにおいて、お酒を飲む際の乾杯は、単にお酒を楽しむというよりも、仲間内の結束を深めるための行為と捉えられているようです。”Một, hai, ba, zô!”(一、二、三、乾杯!)の掛け声と共に、グラスを高く掲げるこの瞬間は、参加者全員が一体感を感じる特別な時のように感じました。
Backlog Meetup in Hanoi
今回のベトナム出張では、地元IT企業の視察だけではなく、Rabiloo社の素敵なオフィスでBacklogのユーザーミートアップイベントを開催しました。JBUGのハノイ版のようなイメージです。
ヌーラボから、会社・製品や、モバイル、SRE,Gitホスティングに関する技術的な裏側を紹介しました。詳しくは以下の登壇資料をチェックしてみてください!
- 会社・製品紹介 〜 Hello, we are Nulab 〜
- High Availability at Backlog Git
- SRE Activities at Nulab
- Backlog mobile apps Migration to declarative UI
その他、活用事例としてPIRAGO社からBacklog APIを用いた社内システムとの連携について紹介していただきました。
ベトナムのソフトウェア産業の「現在」
国が後押しする人気の職業
ベトナムにおいて人気の職業を地元のIT企業に問うと、多くの人が医師に次いで「ソフトウェアエンジニア」を挙げます。ベトナムの平均年収と比べ、「ソフトウェアエンジニア」の年収は非常に高く、魅力的な職業とされています。この状況は、国がIT教育に投資していることが後押ししており、高い語学力(英語・日本語)とITスキルを持つ人材が豊富にいます。
出社文化による対面でのコミュニケーション
さらに、ベトナムでは従来の出社文化が根強く残っており、IT業界でもほとんどの企業が全員出社の傾向にあります。リモートワークは日本と比較してまだあまり浸透していませんが、これにより、対面でのコミュニケーションが頻繁に行われ、物事がスムーズに進むというメリットもあります。
アジアのIT技術をリードする国へ
現在、日系企業を主な取引先とするオフショア開発がベトナムのソフトウェア産業の核を成しています。しかし、ポテンシャル豊かな人材を活用した迅速な開発能力を武器に、近い将来ベトナムがアジアのIT技術をリードする国の一つになることが期待されています。
まとめ
ベトナムと日本の架け橋としてのBacklog
ベトナムにおけるBacklogの使用状況を通じて、「Backlog」は、ベトナムのオフショア開発市場における主要なプロジェクト管理ツールの選択肢になりえる手応えを感じました。これからさらに、ベトナムと日本の間でのコミュニケーションとコラボレーションを促進する重要なツールとなって、両国間の異なるカルチャーや開発プロセスをオールインワンでサポートする架け橋としての役割を果たしていけるように、継続的な改善に努めてまいります。
「Backlog」は日本国内だけではなく、このような国際的な「チームワークマネジメント」も対応できるようなプラットフォームとして、更に発展していくことを目指しています。