こんにちは。ヌーラボのウェブサイトユニットでエンジニアをしているYoshinokiです。
この記事では先日、11/2(日)に開催されたWordCamp Kansai 2025 セッションデイの参加レポートをお届けします。
ヌーラボは当イベントにIn-kindスポンサーとして協賛しており、イベント運営のために弊社サービスのBacklogを提供させていただきました。(ちなみにIn-kind = 現物支給という意味だそうです。知らなかった。)
なお、WordCamp Kansai 2025はコントリビューターデイ、セッションデイの2日間構成でしたが、私はセッションデイの午後のみの参加でした。そのため当記事ではイベントの全日程のご紹介ができないことをご了承ください。
それでは早速イベントの参加レポートをどうぞ!
目次
データベース構造から改めてWordPressを考える
まず最初に参加したのは小山田智寛さんによるセッション「データベース構造から改めてWordPressを考える」。
小山田さんは東京文化財研究所の社内開発者として文化財情報のデータベースを作成しているとのこと。企業やサービス系のWeb制作にばかり携わってきた自分には馴染みのない分野で、改めてWordPressの利用範囲の広さを実感させられます。
セッションではWordPressのDB構造から、 wp_postsとwp_postmetaを取り上げて紹介されていました。
個人的に面白いな〜と思ったのは、 wp_postsを使った画像DBのアイデアです。画像をメディアとしてアップロードするのではなく、post_contentに画像データをBase64で文字列化して登録するというものでしたが、「その発想はなかった」と膝を打ちました。
また、「究極的にはデジタルデータが飛んでもbase64の文字列を紙に印刷しておけばデータ復旧できるというメリットがある」という話も非常に興味深かったです(NASAで同じような事例があったとのこと)。このあたりはデータを永続的に保存することのプライオリティが非常に高い文化財研究という領域ならではですね。
「Omeka S」という文化財のデジタルコレクション公開のために使われるニッチなCMSの存在も初めて知りました。カスタムフィールド的な使い方を前提にしたCMSで、データを先に登録してサイト(カスタム投稿のようなもの)で公開する仕組みだそうです。
他のCMSを知ると、WordPressの特徴を相対化して捉えられて面白いですね。WordPressは「作って、公開」を簡潔に行うための構造であり、管理のための情報はあまり持たない設計になっているという説明を聞いて、なるほどと思いました。
その他学びになったこと:
- WordPressではメディアやカスタム投稿も含めて、ユーザーが意思を持って保存する情報はほぼ全て
wp_postsに保存される - カスタムフィールドの項目自体はID管理されておらず
meta_keyとpost_idの組み合わせで一意性が担保される(※ここは私の理解が曖昧かも)
ブロックテーマ実践記 – 本当に使いやすいWordPressの作り方
続いては岡本千秋さんによる「ブロックテーマ実践記 – 本当に使いやすいWordPressの作り方」に参加。
現場での豊富な経験から、ブロックテーマ構築における実践的な知識を伝えてくれるセッションでした。
セッションの中で出てきた「デザインの選択肢を整理する」という視点は、個人的に一番重要だと感じています。選択肢が多すぎるとコンテンツ更新者も「どれを選べば良いんだ…」と迷いが生じますし、制作サイドも考慮すべきパターンが無限に増えて管理しきれなくなります。
セッションの中では特に注力すべきは「色」と「フォント」と言及されていました。
- デフォルトのカラーパレットは非表示にして、必要な色を絞ってパレットへ登録する
- フォントサイズは5個までに絞る(6個以上になると選択UIがセレクトボックスになり使いにくい)
といった具体的なテクニックが非常に参考になります。
理想論だけではない現場で得たリアルな実践知が数多く散りばめられていて、個人的に最も学びの大きいセッションだったなと感じます。実際の利用者の更新しやすさを徹底的に考えている姿勢が強く伝わってきました。
私自身まだまだブロックテーマやフルサイト編集については経験が浅い(クラシックテーマを使いつつブロックエディタを一部カスタマイズしている程度)ので、岡本さんの姿勢を見習って更新しやすいWebサイトを作っていきたいです。
岡本さんとは交流会でもお話しさせていただき、Tailwind CSSの使い方や、セッションに収まらなかった未解決の課題についてより深く聞くことができ、大変有意義でした。ありがとうございました!
その他学びになったこと:
- 最近のWordPressでは、コアブロックと「パターン」でほとんどのパーツはカバーできる
- 「スターターパターン」を利用するとプラグイン(Duplicate post)によるページの複製ではなく、テンプレートとしてページのパターンの再利用ができる
スポンサーブース
岡本さんのセッションのあとはスポンサーブースを回っていました。(この時間帯のセッションも非常に気になりましたが…)
すべてのブースは回りきれませんでしたが、弊チームでも利用しているサービスや、以前から気になっていたサービス・企業様のブースもあり、とても興味深くお話を聞かせていただきました。
名刺交換の際、「Backlog使ってます!」の声を数多くいただけたのも非常に嬉しかったです。
素敵なノベルティをたくさんいただきました。(これでも一部です)
現場で遭遇した「編集できないWordPressサイト」をブロックエディター対応にした話
続いては、ほんだとしゆきさんによる「現場で遭遇した「編集できないWordPressサイト」をブロックエディター対応にした話」です。
WordPressでのWeb制作をしているとしばしば遭遇する、「編集できないWordPress」を、いかにしてブロックエディタに対応させたかという経験を語ってくださいました。
ほんださんが担当したこの案件では
- タイトルやサムネイルなど、WordPressの標準機能で出来ることもすべてACFで実装されている
- 固定ページがテーマにハードコーディングされていて内容が変更できない
など管理画面からの更新がままならない状態だったとのこと。このセッション中は会場からも、分かる分かる…といった雰囲気の相槌がたくさん見られました。
特に印象的だったのは、移行作業中の更新差分をなくすため、稼働中の本番サイトにsave_postフックで自動的にデータをコピーする処理を仕込むというお話でした。
リニューアル中に現行環境で更新された差分を取り込むのが地味に面倒…みたいな場面はありがちだと思います。このsave_postフックを仕込んで最新情報を保存する、というやり方はそんな際にも幅広く応用が効きそうなので、ぜひ覚えておきたいと思いました。
全体を通じて、改めてWordPress標準のアプローチを踏襲することの重要性を深く理解したセッションでした。
その他学びになったこと:
- プラグインに機能を切り出して、テーマ依存を減らすと良い
- 標準機能で作らないと後で絶対に誰かが苦労する(共感しか無い)
LT(ライトニングトーク)
各セッションの終了後、最後に3名によるLTでこの日の発表は締めくくりとなりました。
WordPress テーマのテスト可能設計
明石荘作さんによる、WordPressテーマ開発でのUIの単体テストに関するLT。
データを渡すファイルと、HTML整形のファイルを分離し、HTML整形側のファイルをプレーンなPHP(データを受け取ってHTMLを組み立てるだけ)にしておくとテストがしやすくなる、という話を聞いて、ReactのContainer/Presentationパターンを思い出しました。
私自身もUIパーツを実装する際にはこの構造を意識することが多いので、改めて関心の分離の重要性を感じました。
知らないでは済まされない医療機関サイトの新しい掲載義務要件と制作者の責任
中村征一郎さんによる医療機関サイトのコンプライアンスに関するLT。
2025年の6月からウェブサイトを持つ全ての保険医療機関は、施設基準をサイトに掲載することが義務化されたそうです。(知りませんでした)
医療業界はまだまだWebのリテラシーは弱い傾向があり、「業者さんに任せておけば大丈夫」となりがちだそう。義務化までの猶予期間はあったもののまだまだ対応が進んでいないとのこと。こういった話は医療に限らず他の業界でもありそうだなと感じます。
普段からコンプライアンスについての感度を上げておき、制作側からクライアントに提案していくことの重要性について話されていて、ここはアクセシビリティの話にも通じるなと思いました。
とってもレガシーなテーマ開発をしていた私が、初めての公式テーマと有料テーマ開発を通して学んだWebサイト更新担当者の気持ち
cometさんによる、page-slug.php を多用したテーマ開発への危機感から、ブロックテーマで公式テーマと有料テーマを開発してみた(している)というLT。
Theme Handbookを参考に公式テーマとして登録できるテーマを開発したことで、「作る視点」から「使う視点」への転換があったとのこと。
さらに現在は有料テーマの開発へ進み、「作る・使う・改善」のサイクルで機能を1個ずつ開発しているそうです。「画面のすべての要素が管理画面で更新できる」というテーマを作るのはかなり大変だと話されていましたが、使う側からするとやはり圧倒的に便利ですよね。
私自身まだまだブロックテーマに追いつけておらず非常に危機感を持っているので、参考になるLTでした。一日のセッションを通して、改めてブロックテーマやFSEへのやる気が湧いてきたのでキャッチアップ頑張っていきたいです。
追記:「これからの「Webデザイン」の話をしよう~デザイナーの私が考えるブロックテーマへの対応で変わりゆくデザインの価値~」
このレポートを書いている途中に、当日見られなかった以下の発表のスライドをタイムラインで見かけて衝撃を受けました。当日見られなかったのが悔しいくらいに良い内容だったのでご紹介させてください。
三宅敦さんによる「これからの「Webデザイン」の話をしよう~デザイナーの私が考えるブロックテーマへの対応で変わりゆくデザインの価値~」という発表です。
クラシックテーマからブロックテーマへの変遷の説明、ブロックテーマ開発に必要なデザインデータの考え方、作り方もとても分かりやすくて参考になります…
さらに「これからは見た目のデザインだけではなく、アクセシビリティや体験価値が重要」という言及までなされており、WordPressの枠に留まらず「デザイン」とはなにかを考えさせられる内容でした。
こんな制作ができれば理想的だなと感じていたことが、実際に言語化され、説明され、目の前に現れたことがとても嬉しかったです。この発表からは本当に大きな刺激とやる気をいただきました。ありがとうございました!
懇親会
懇親会会場のBlooming Campの入口です。会場全体が非常におしゃれでした。
閉会式後、さくらインターネットさんの「Blooming Camp」という会場での懇親会に参加しました。(会場がめちゃくちゃ広くておしゃれ、食事も豪華で美味しかった…)
懇親会にはNulab Conference、Backlog World、JBUG等の登壇者、スポンサーの皆さまやBacklogユーザーの皆さまも多くいらしていました。
Web制作業界の方が多く、Backlogのことをよく知ってくださっていて、「いつも使ってます!」という声を直接聞けたのは大きな喜びでした。ありがとうございます。
中には、Backlogとの連携アプリを開発しているエンジニアの方にも出会え、リリースしたらJBUGに登壇したいとのお話も…! 楽しみに待っております。
一日を通してたくさんの方とお話でき、WordPressコミュニティの強さを感じた有意義な時間でした。(個人的には、ハムワークスさんのエンジニアさんとWeb制作エンジニア共通の悩みやあるあるを話せてとても楽しかったです。ありがとうございました!)
最後に
WordPressのコミュニティに参加するのは今回が初めてでしたが、その熱量の高さと繋がりの広さをひしひしと感じました。
また、イベント運営が非常にスムーズで、ストレス無く一日を楽しむことができました。運営チームやスポンサーの皆さまに心より感謝を申し上げます。
聞きたかったけれど時間の都合で泣く泣く諦めたセッションもいくつかあるので、アーカイブ動画を視聴したいと思っています。
各セッション会場のアーカイブがまとめられたYouTubeの再生リスト
WordPressコミュニティの雰囲気の良さを感じることができ、とても意義深い時間になったので、今後も個人としても会社としても積極的に参加していきたいと思いました。
WordCamp Kansai 2025 参加できてよかったです。本当にありがとうございました!
