タイの首都バンコクでは、近年スタートアップが大きな盛り上がりを見せており、新しいコワーキングスペースもますます増えています。その中でも、圧倒的な存在感を放っているのが「HUBBA Thailand」。2012年の設立以来、独自のコミュニティー力を強みに、地場のスタートアップや海外からやって来るノマドワーカーを多く惹きつけています。 最近では、バンコクのメガバンクと共催してスタートアップ・プログラムに力を入れていたりと、バンコクのスタートアップシーンを語る上で欠かせない存在です。
今回は、そこでコミュニティー・キュレーターを務めるポイ・ジャルーンラードジャンヤーさんに、HUBBAの魅力について伺いました。
【Profile】
Poy Jaroenlerdjanya(ポイ・ジャルーンラードジャンヤー):
HUBBA Thailandのコミュニティー・キュレーター。タイで最も歴史が古いチュラロンコン大学で5年間教育学を学んだ後、2012年9月から現職。HUBBAの立ち上げメンバーとして、オープン当初からコミュニティーマネジメントやイベントの企画・運営、PRを担当している。
——目的や用途によって使い分けできる充実した設備
まずは、HUBBAについて教えてください。
HUBBAは、バンコクのスタートアップの集積地であり、小さなスタートアップ・エコシステムを形成しているコワーキングスペースです。現在はコワーキングスペース事業以外にも、現地のメディアや企業とイベントを共催したり、企業やフリーランス向けにビジネスワークショップなどを行っています。
HUBBAは二つの施設を運営しています。一つ目は少人数のチームやフリーランスに向けたコワーキングスペースです。二つ目は人数が多いスタートアップ向けのコワーキングスペースで、ワークショップやイベントなども行う際はこちらを使っています。もともとクリエイティブスペースとして、ハードウェア系のスタートアップやデザイナーに利用されていましたが、利用者の増加に伴い現在はこのような使い方をしています。施設内には3Dプリンターなどもありますよ。
HUBBAを立ち上げたいきさつは?
立ち上げたのは2012年7月でした。当時バンコクのコワーキングスペース事情は、概念自体多くの人が知らない状態。ごくわずかの人しか利用できなかったため、スタートアップやフリーランサーの多くは自宅やカフェなどをオフィス代わりに使っていました。
この現状を見かねたHUBBA共同代表のCharleとAmarit のCharoenphan兄弟が、シリコンバレーのスタートアップ・エコシステムやコワーキング文化を参考にして、バンコクでもスタートアップやフリーランサーが自分のプロジェクトに集中できるような場所を作るという目的で設立しました。
——シェアの力で磨かれていく強いコミュニティー
HUBBAのコンセプトを教えてください。
私たちは“Power of The Sharing”というコンセプトのもと活動をしています。運営スタッフをHUBBAクルーと呼んでいるのですが、彼らの主な役割は、利用者が快適に働ける場所を提供すること。そしてコミュニティーを作り、運営することです。 コミュニティー作りは私たちがもっとも大切にしていることです。
具体的な活動としては、開発者やデザイナー向けの勉強会、ビジネスや言語に関するワークショップなどを行っています。こういった機会を提供することで、利用者間でコミュニケーションをする機会が増え、多くのコラボレーションが生まれており、それは大変うれしいことです。
そして私たちは、人と人が自然に出会うことで新しいアイディアを生み出してほしいと考えています。ビジネスのためだけのネットワーキングは非常に合理的なやり方だと思いますが、それは望む形ではありません。
例えば、ビジネスパートナーを見つけたいという相談を時々いただきますが、基本的に私たちはダイレクトに繋げることはしません。それは、信頼できるビジネスパートナーを見つけるためには、時間をかけて互いを知っていく必要があると考えているからです。 ビジネス目的ではなく心から信頼できる人を時間をかけて見つける。お互いに学び合い知識やスキルを共有する。それこそHUBBAが目指す姿です。
利用者はどのような人たちが多いですか?
利用者全体の60%は外国の方で、残りの40%はタイのスタートアップです。外国人ユーザーの国籍はさまざまで、主に欧米系が多いのですが、アジアやアフリカなど世界中のスタートアップやフリーランサーにも利用されています。利用者による口コミや、HUBBAが主催するイベントをウェブサイトで知ったことがきっかけで訪ねて来てくれることが多いです。
どのようなところが魅力になっていると思いますか?
HUBBAはほかのコワーキングスペースとはまったく異なります。 一つ目はコミュニティー内の繋がりが強いところ。勉強会などのイベントは少なくとも1週間に3回行っています。人の繋がりを生んだり、知識やスキルの共有を目的としているので、これらのイベントはHUBBA利用者以外も参加できるようにしています。場所を提供するだけのコワーキングスペースはたくさんありますが、こういったイベントを積極的に行っている点は大きな魅力だと思います。
二つ目は環境や雰囲気です。HUBBAの敷地内の庭には巨木が生えていたりと緑が多く、テラスもあります。仕事で息詰まってしまったときに、気分を切り替えるために外で仕事をすることができます。緑を見ながら人と話すという息抜きができるのは、多くの利用者から好評です。それから、建物が2階建ての一軒家なので、それがアットホームな雰囲気を増しているとも言われますね。
コミュニティー・キュレーターの役割とは?
現在の私の役職はコミュニティー・キュレーターですが、コミュニティー・マネージャーだった時期もありました。 仕事の内容はほとんど一緒です。しかし、HUBBAでは一人のマネージャーがすべてやるというよりも、チーム内で仕事が均等になるように分担をしています。コンセプトである“Power of The Sharing”という考え方がここにも表れているのでしょう。 事実、私が一人でコミュニティー・マネージャーを担っていたときは何かとうまくいかないことが多かったのですが、それと比べ今は仕事の質もスピードもだいぶん上がったと思います。
——競合とのコラボレーションで新しいものが生まれる
ポイさんが考える「コラボレーション」について教えてください。
最近、コワーキングスペースの運営の仕方やコミュニティーの作り方といったテーマで、ワークショップをする機会がありました。そのときに「なぜ、あなたは競合相手にヒントや答えを教えてしまうのですか」と尋ねられました。これに対する私の答えは、彼らに自分の知識をシェアすることは最終的に自分の考えのブラッシュアップに繋がっているということです。そこで自分が思いもよらなかった意見がもらえれば、自分自身の考えの改良に繋げることができます。
もちろんアイディアがコピーされるという考え方もありますが、自分のアイディアを使って相手がより優れたものを作ることができたら、それは相手に非があるのではなく自分の努力が足りなかった、と考えています。 自分を成長させるためにも、オープンマインドであること。そして自分の考えや知識を他者と共有して、別の意見を聞くことこそ最良の方法だと思います。
HUBBAが目標とするコワーキングスペースとは?
「利用する人にとって『第二の家』になりたい」と私は考えています。自宅やオフィスを使わないでわざわざ来てくれている彼らに、常に感謝の気持ちでいっぱいです。もし何か困っていることがあれば、最大限助けたいと考えています。それは私だけでなくHUBBAクルー全員が思っていることです。 もちろん新たにやって来る人も大歓迎です。シェアやコラボレーションを大切にする私たちにとって、新たにやって来た人から新しい学びを得ることは、新しいインスピレーションを生み出す刺激になると信じているからです。
これからもHUBBAを利用する人と情報やスキルといったあらゆることをシェアしながら、一緒に切磋琢磨していきたいです。そして、彼らにエナジーを与えたりエンパワーメントをしていきたい。「明日もHUBBAにまた来よう」と思ってもらいたいです。