こんにちは。ヌーラボのUXライターの伊東です。
この記事はヌーラバーブログリレー2022の20日目として書いています。
(はたして間に合うのだろうか?→間に合いました!ほっ!笑)
さて、みなさんは“UXライティング”をご存じでしょうか。
UXライティングとは、簡潔に言うとユーザーのサービス体験を言葉でデザインする技術のことです。アプリのボタンラベル、ヘルプページ、通知メッセージなど様々なタッチポイントを通して、ユーザーの目的や行動をサポートします。
ヌーラボでは、今年7月に、このUXライティングを専門で取り扱う“UXライター”のポジションができました。
GoogleやEvernoteなどのグローバルなデジタル企業を中心に数年前から採用が始まり、現在では日本国内でも注目が集まっている職種です。
とはいえ、まだまだ一般的な認知度は低いですし、企業で専任のUXライターとして働いている人も、まだまだ珍しいようです。
本記事では「UXライターってどうやって働いてるの?」の事例のひとつとして、ヌーラボがUXライターを必要とした経緯も含め、組織にUXライターを“存在”させるためにしたことをお話しします。
目次
どうしてUXライターが必要だったのか
すべてのサービス提供企業において、UXライティングは必要とされる技術です。しかしながら、多くの企業ではUXライティングの専任者を置いていません。
ほとんどの企業では、近い領域の業務を持つ方(たとえばフロントエンドエンジニアやUIデザイナー)が、主業務に加えてライティングもこなしている状況が多いのではないでしょうか。
以前のヌーラボでも同じでした。エンジニア、プロダクトマネージャー、カスタマーサポートなど、担当する業務でライティングも担うことのある人たちが集まって、社内で勉強会を開催したこともあります。
ヌーラボではメンバーがそれぞれの得意分野を持ち寄って協働することが多くあります。
多様な価値観が入り交じる協働は推進力がありますが、あらかじめガイドライン等を設けておかない限り、制作プロセスやアウトプットに一貫性を持たせることは困難です。
このような状況を背景としつつ、ヌーラボのUXライターはサービスに一貫性のある体験を生みながら、メンバーの自由なコラボレーションを維持できるような仕組みを実現させる役割として生まれました。
“UXライターがいる組織”にするためにやったこと
このような経緯で、私はヌーラボ初のUXライターとなりました。しかし、実際にわたしがUXライターとして役目を果たすには、UXライティングが必要なタイミングで、だれかに声をかけてもらわないと始まりません。
ヌーラボにおけるUXライティングがどう機能するのか社内の理解を促進し、適切にプロジェクトへ参加させてもらえるようにいくつかのアクションを行いました。
インセプションデッキの作成
まずは“UXライティングの立ち上げプロジェクト”として簡易的なインセプションデッキを作成しました。
インセプションデッキとは、プロジェクトの全体像(目的、背景、優先順位など)をまとめたドキュメントです。アジャイル開発でよく用いられ、プロジェクトメンバーが同じ認識を持ち、目指す方向を揃えるために活用されます。
これを今回は、UXライターを置く目的や解決したい課題、どうやって解決していくか、などをまとめて社内に共有するために利用しました。
また、先述したとおり、本来UXライターが担うべきとされる業務は、すでに近い領域の業務を持つ誰かが対応してくれていました。
そのメンバーから業務を引き継ぎ、関わりかたの期待値をすりあわせるときも、「なぜわたしたちはここにいるのか」に立ち返ることで話を進められたので、あってよかったなと思います。
依頼テンプレートの整備
依頼テンプレートは、相談や依頼をもらう際にはじめから必要な情報を漏れなく提供してもらいやすくするために作成しました。
すべての依頼者が、UXライターがどんな観点や方法やでライティングするかを把握しているとは限りません。「どんな情報があればライティングできるのか」は、UXライター自身で提示する必要があります。
UXライティングを始めてすぐの頃は、まだこのあたりが整備できていなかったため、TypetalkにUXライティングの専用トピックを用意して相談を受け付けていました。
このときの会話などをヒントに、あらかじめ必要な情報や、調整で気を配るべきところをテンプレートに反映させています。
Backlogの課題の“種別”で依頼の種類(ライティング、ローカライズ、レビューなど)を分類し、課題テンプレートで必要な情報をあらかじめ用意してもらえるようにしました。
具体的には
- だれになにを促すためのテキストなのか
- どのチャネルで発信するのか
- プロジェクトの全容を把握できる課題のリンク
- (あれば)ドラフトやプロトタイプ
など、ユーザーがその言葉を目にする際の体験全体について、確認できる情報を提供してもらっています。
ライティングプロセスの明文化
UXライティングは担当者の好みやセンスではなく、根拠を持つ、プロセスに沿った活動であることを明らかにしておくため、BacklogのWikiにUXライティングの基本的な手法や基準をまとめて公開しました。
ライティングの実践パートの内容は“Strategic Writing for UX”の Chapter 5. Edit, Because They Didn’t Go There to Read で紹介された編集プロセスをベースにしています。
今後はこのハンドブックに具体的な内容やサンプルなどを付け足して、スタイルガイドとしてアップデートすることを計画しています。
当初の計画にあった、メンバーの自由なコラボレーションを維持しながら、アウトプットに一貫性を持たせるための仕組みとして機能するはずです。
また、実際のライティング作業はGoogle DocsやCacoo、Figmaなどで行い、できるだけ一言一句の選定過程まで確認できるようにしました。新米のUXライターの力量ではなく、ライティングのプロセスを信頼してもらうための方法です。
また、こうしてプロセスを開示すると、建設的で質の高いフィードバックをもらいやすいというメリットがあります。
日本語のUXライターはわたし1人なので、協業メンバーの者の目や知恵を借りないと、なかなか“多角”を再現することが難しいのです。
メンバーにライティングの意図や過程を共有することで、そのあたりも考慮した上でのフィードバックがもらえるので、結果としてひとりで作りきるよりもアウトプットの質はよくなります。
モブライティング
UXライティングの効果を理解してもらうために有効だったのが、協業メンバーの目の前でライティングをしてみせる、または複数人で同時にライティング(モブライティング)をすることでした。
モブライティングはモブプログラミングからとった造語です。メンバー全員で、同じテキストを、同じ時間に、同じ場所(わたしたちの場合はMeetをつないで)ライティングをします。
協業メンバーの把握している情報を引き出してコンテキストを捉え、UXライティングの観点での気付きやアイデアを共有。ライティングと編集を進めていきます。
この方法は、上で紹介した“依頼テンプレート”での情報共有と、“ライティングプロセスの共有”をリアルタイムでしている形とも言えます。
人的コストはかかりますが、協業メンバーのUXライティングについての解像度が上がりますし、同期コミュニケーションならではの密な情報のやりとりによって、アウトプットのスピードや品質も向上します。
海外チームとの協業プロセスの整備
わたしがUXライターに異動した翌月、アムステルダムオフィスに英語を担当するUXライターが入社しました。これをきっかけに、多言語間でより一体感のあるUXデザインを実現するために、海外のデザインチームとの協業プロセスをまとめなおしました。
海外チームがデザインを担当する場合、アプリ上の初期テキストは英語で作成されます。
これまでは、英語のテキストを日本の開発者が日本語に翻訳して適用していましたが、現在はわたしが英語のテキストを受け取り、日本語に翻訳したものを開発者へ渡すようになりました。
このとき、ただ機械的に翻訳するのではなく、テキストが作成されたコンテキストに配慮しながら、日本語としての体験をなめらかに整えるようにしています。ですので、実際のわたしの仕事はローカリゼーションライターという要素もかなり含んでいます。
逆に日本のチームがデザインを担当する場合は、先に日本語で初期テキストを作成した上で、英語テキストを完成させることもあります。
使う言語は違えど、UXライティングという共通のフィルターを通した言葉は、検討・判断したポイントがわかりやすく、結果としてテキストとデザイン双方のすりあわせがしやすくなったように感じています。
ほぼ同じタイミングで日英のUXライターが揃ったことは、とても幸運でした。
終わりに
以上が、組織でUXライティングを正式な業務として確立するために、今日まででやってきたことです。
現在は順調に依頼も増えており、チームやサービスをまたいで横断的に仕事をさせてもらえていることに感謝しかありません。
まだまだやることは山積みですし、これらの取り組みが組織に行き渡っているとも言えない状況ではあります。これからも周りの様子をよく観察しながら、着実に必要なアップデートをしていきたいと思います。
情報の粒度が大きいままの紹介になり恐縮ですが、これから組織内でのUXライティング立ち上げに携わる方に、そして私と同じように困るかもしれないどなたかのお役に立てたら嬉しいです。
今回は具体的なライティング技術の話はできませんでしたが、それはまた次の機会に。
どうぞ皆様、おだやかなホリデーシーズンをお過ごしください。