ニューヨークで活躍する起業家やエンジニアのインタビューシリーズ。第2回目は、飲食アプリをリリースした2人の日本人女性起業家、木村仁美さんと中澤英子さんに話を聞きました。
【Profile】
木村仁美(Hitomi Kimura):
中澤英子(Eiko Nakazawa):
飲食アプリ「NeuroDining」(ニューロダイニング)、「Dinners Code」 (ダイナーズコード)の共同経営者。共に慶応義塾大学法学部卒業。木村さんはJPモルガンに入社し2010年に駐在でニューヨークへ(後に東京三菱UFJ銀行に転職)、中澤さんはソニーに入社し2011年に駐在でニューヨークへ。在職中、木村さんはコロンビア大学で経営工学を、中澤さんはスタンフォード大学で経営学を学ぶ。友人の紹介で出会い、共に「大の外食好き」で意気投合。昨年起業し、今年5月と9月に同アプリをリリース。
—— コンセプトは「いいレストランといい客を繋げる」
2つの飲食アプリ、それぞれの特徴を教えてください。
木村:「NeuroDining」は有料の会員制飲食アプリで、人気店の中から定評のある店を簡単に選べ、予約を常に確約できるというサービスです。ニューヨークでは人気店ほど予約を確保するのが至難の業ですから、急に決まった接待やデートのときにも便利です。VIPゲストとしてドリンクサービスなどの特典も受けられます。
「Dinners Code」の方は無料で利用できるアプリで、各自のライフスタイルに合ったお店の無料ドリンクや割引、優先予約などの特典を検索できるサービスです。店選びのツールとして便利ですし、行けば行くほど特典が増える楽しみもあります。
ビジネスの状況はいかがですか。
中澤:「NeuroDining」は会費が月65ドルということもあり、利用者の大多数はコーポレート会員です。現在、数百人にご利用いただいています。「Dinners Code」はまだ始まったばかりなので利用者数を伸ばしていくのはこれからですが、現在約60軒のお店に参加してもらっており、最終的には各主要都市で100軒ほどに増やしたいと考えています。
木村:「Dinners Code」は現在、ユーザーと参加店を増やすことにフォーカスしています。良いお店と良いお客さまを繋ぐエコシステム、そして信用できるプラットフォームを作り、店側・顧客側両者にとって欠かせない存在になるのが一つの目標です。将来的には、広告収入などの収益構造も考えています。
これらのアプリの誕生のいきさつは?
木村:私たちは2人共食べ歩きが大好きで週の半分以上外食をしているんですが、なかなかVIP扱いされない、予約したのに待たされた…などの経験があり、「もう少し外食産業に貢献している人を認知し、優遇してくれるようなアプリシエーションがあればいいよね」という思いがありました。
中澤:私の発想の原点は、どちらかというと店探しの不満からでした。例えば、こちらでは「yelp」が人気ですが、利用者はアジア人が少なく、年収が1千万円を越えている人が10%に満たないというデータがあります。違う価値観を持つ人の評価を基にした店選びにも限界があるなと感じ、食通が信用できる店をキュレートするアプリを作りたいと思いました。
すでにある飲食系アプリとは競合しないですか?
中澤:まったく同じ発想のアプリは実はないんですよ。先ほどの話に加えて、「Dinners Code」はレストランオーナーと日々やり取りする中で聞こえてきた店側の悩みを解決するツールにもなっています。5年間で8割が閉店するという厳しい市場で、店側の悩みは「最適な集客ツールがない」、そして「良いお客さんを確保できない」ということでした。例えばPR会社を使うと毎月何千ドルもかかってしまうし、「Groupon」で半額にしてもターゲットとする顧客が来ない、予約したのに来てくれない、オーダーせずに長居されるなど、店側も満足できていないのが現状です。だから、「yelp」で店が評価されるのと一緒で、店側も「この客はマナーが良い」「また来てほしい」など顧客を評価できるツールがあればいいねという話になりました。
「Dinners Code」にはこのような両サイドからの評価機能に加え、お店同士がその評価をシェアすることも可能でして、この機能はほかのアプリ、例えば「Open Table」などにもないものです。
—— “We can have it all”まさにその通りだと思う
会社を辞めてしかも海外で起業というのは、相当の勇気や決心がいりそうですね。
木村:そうですね。私たちはこれまで大企業の中で守られてきた立場なので辞めるのは大きな決断でしたし、迷っているうちは辞めない方がいいだろうと思っていました。しかし、起業するときには2人で「これはイケる!」「今しかできない、今やろう!」となっていたので、迷いはなかったです。
また、1人じゃなくて2人で起業というのも本当に良かったと思います。私の前職は金利ストラテジストという肩書きで経済に波があるというのは充分わかっているつもりなんですが、サインアップ数とか提携店の数の伸びに波があるとやはり落ち込んだりして。でも不思議なことに、1人がうまくいかないときはもう1人がうまくいくことが多く、バランスがうまく取れて助けられています。
ニューヨークは物価や人件費が高いですが、起業資金などは?
木村:コロンビア大学が所有するインキュベーター「Columbia Startup Lab」(コロンビア・スタートアップ・ラボ)に弊社が選ばれたことで、オフィス利用料もほとんどかかっていませんし、会計や法律関係も卒業生のプロボノで助けてもらえるんです。また、コロンビアのブランド力も手伝ってくれて、エンジニアやデザイナーなどは優秀な学生がたくさんインターンで参加してくれ、こちらもすごく助かっています。
ニューヨークで女性の起業家が増えていると言われています。どういう利点があると思いますか?
木村:女性でアメリカ人ではないというのは、投資が入りにくいなどネガティブな面もありますが、アメリカでビジネスを勉強したなどのバックグラウンドがあればオポチュニティはあると思います。そもそも伝統的な大企業、特に日本の金融系などでは女性としての人生設計をしながら男性と平等に昇進することはまだ難しい面があります。でも起業するということは人生設計に合った会社を自分で作れるということですから、女性にとってベネフィットは大きいと思います。
中澤:オポチュニティコスト(機会損失)という言葉がありますが、私は仕事と家庭の両立ができないなんてことは絶対にないと思っているんですね。例えば「Yahoo!」CEOのメリッサ・メイヤーはCEOになった後に出産し、その裏では「Tumblr」を買収したりオフィスに託児所を作ったりと、両立させるための環境を自分で努力して作っています。アメリカ人がよく言う「We can have it all」(すべてを手に入れることができる)は本当にその通りだと思います。
私たちはスタートアップのコファウンダーとして、アウトプットを出すために何が重要かを常に考え、ベストな環境を自分で作る責任があります。環境をフレキシブルに自分たちで決めていけるのは大きなベネフィットだと思います。
最後に、今後の予定を教えてください。
中澤:初めて訪れた街で初めて行くレストランでも、「Diners Code」を通じて顧客が店側にお得意さま扱いしてもらえるようなシステムを作っていきたいので、ニューヨーク以外のほかの街でも展開を考えています。具体的には、レストランと人口の密集度を考えて、アメリカではマイアミ、ワシントンD.C.、サンフランシスコなどに、国外では東京、ロンドン、香港に展開する予定です。