7月29日に「CS Night – カスタマーサポート次第でサービスは変わる -」というテーマのイベントがヌーラボ福岡オフィスにて開催されました。ライトニングトークには、福岡市役所企業誘致課 山下龍二郎氏、株式会社スタディスト執行役員CMO 豆田裕亮氏、株式会社ヌーラボサポートエンジニア 漢円教氏、シタテル株式会社CEO 河野秀和氏が登壇しました。
カスタマーサポートは「会社の顔」と言われるほど、もっともお客様との距離が近い部門です。今回のイベントでは、昨今の福岡市でのカスタマーサポートの概況から、各社が取り組むCSに関する具体例が余すこと無く語られ、多くのCS担当者から会社経営者で賑わいました。本記事では、当日のイベント模様をお届けします。
山下氏は「福岡市のカスタマーサポート事情」というテーマで、カスタマーサポートセンターの立地状況や企業の事例紹介といった福岡市の概況についてお話ししてくださいました。
福岡市が過去5年間に立地を支援したカスタマーサポートセンターの件数は28件、雇用者数は5,607人と増加しています。優秀な人材が豊富であること、コストメリットの高さなどを理由に、最近ではIT系企業のカスタマーセンター進出も目立っているそうです。
昨今企業では人材不足・採用難が叫ばれています。福岡でも同様で、労働局が発表している有効求人倍率の推移では2011年度は一人当たりの求人数が0.6だったのに対し、2016年5月の時点では一人当たり1.3になっており、人材側が有利な売り手市場になっています。しかし、蓋を開けてみると職種別でばらつきがあり、福岡では専門職は一人当たり1.3の一方で、事務職でみると一人当たり0.3倍。圧倒的に人が余っているのが現状だそうです。山下氏は、こうした余剰人材がカスタマーサポートやコンタクトセンターなどに結びつくと、より良いサービスの創出、人材の獲得に繋がると分析します。
コストが抑えられて、優秀な人材が余っている福岡。企業にとってまさに魅力的な拠点候補といえるでしょう。そこで、山下氏は数百社にも及ぶ企業の進出から得た知見として、福岡に進出をしたことでうまくいっている企業の共通点を挙げます。鍵となるのは、「スタッフが辞めない環境づくり。人材を持続的に確保していて、チームがうまくいく体制づくりができていること」と山下氏は語ります。例えば、働き手の働き手の都合にあわせて柔軟な勤務形態を設けたり、SVを入れて円満なチームワークが築ける働きやすい環境といった、企業側が個人にどれだけ歩み寄れるかが大きなポイントになっているとの見解を述べました。
続いて登壇した豆田氏は、自社サービスTeachme Bizの事例をもとに「高いCS組織の作り方」というテーマで、自社の組織体制についてお話をしてくださいました。
サービス開始当初のカスタマーサポートフローは、お客さまから問い合わせがきたら社内のコミュニケーションツールで共有→必要であれば開発や経営部門に解決のノウハウを聞いて返事を出す、というもの。豆田氏はこのフローを一ヶ月続けて、顧客の問い合わせ履歴の管理と、パフォーマンスの計測を目的に外部ツールの導入を検討しました。
現在のカスタマーサポートのフローは、お客様からの問い合わせはZendeskで管理・Zendeskできた問い合わせを社内のコミュニケーションツールYammarに自動で転記するように設定・Yammarの内部にCS専用のスレッドを立ち上げ、社内のメンバー全員が閲覧できるスレッドを作成というもの。このフローに変えたことで、豆田氏が会議などでどうしても問い合わせ内容を確認できない時間が発生しても、関係者間での議論が進み、解決策をZendeskにすぐに流すことができるフローが作れているそうです。
Teachme Bizは月に約400件の問い合わせがきて、平均して24時間以内にすべての対応が終わっています。カスタマーサポートの体制については、アウトソーシングを活用しており、問い合わせ内容によって対応の分類をしています。具体的に、操作やマニュアルさえあれば返信できるものはアウトソーシングで夜の内に対応→運用や社内でしかわからないものは営業時間内に社内で処理、と分担して効率的なCS体制を作っているそうです。
豆田氏は、アウトソーシングを円滑に進めるために、「徹底的に回答の内容を標準化・パターン化」して、いつでも誰でも簡単に、過不足なくタスクを完結できるようにしていると語ります。
「返信定型文を作ることで、問い合わせに即座に対応できる仕組みを作っています。さらに、テンプレートを活用することで、返信内容を人によってぶれなくできるので、CSの品質の一定化も測ることができます。さらにそれをFAQと併用することで、即座に返信できるだけで無く、CSの品質の一定管理も可能です。」(豆田氏)
豆田氏は、2年半の間1000社ものCS対応をひとりでこなし、仕組みやツールを選定し、一つ一つの返信や対応方法を重ねた上で、今年の8月から遂にカスタマーサポートの専任を入れたそうです。高いCSを生み出すために必要なこととして、「お客さんからの対応が増えてきたからと言って、人をたくさん入れてカスタマーサポートをこなすと言うわけではなく、最初は人をあまり雇わないで、苦しくても仕組みをつくる方に特化する。仕組みがうまく回り始めたタイミングで、専任を入れるべき」と自社の組織体制について語りました。
次に登壇した、河野氏は現在組織化を進めているという自社のカスタマーサポート体制とそのコンセプトについてお話してくださいました。
シタテルのカスタマーサポートチームは、衣服の生産を必要とする様々な顧客の依頼に対応する「マーケット開拓」に分類されており、一人あたり50社のブランドや工場を担当しています。アパレルに精通した専属スタッフによって構成されており、生産工程におけるアドバイスや国内の縫製事業者や連携工場のネットワークを活用した製品作りのサポートを一貫して行っています。
メーカーなどの事業者のイメージをヒアリングして、国内の中小裁縫工場に明確な生産依頼をする。両者の工程では、テクノロジーが出てくる場面は少なく、主に人の手によって進められることが多い為、シタテルのカスタマーサポートチームは重要な役割を担っています。
河野氏は、シタテルがお客様に対して提供するマーチャンダイジングについて「単に生産管理をするだけでなく、ユーザー商品計画・商品化計画を提案する、コンサルティングのような側面もある」と説明します。シタテルのCSは、積極的にお客様に提案し、生産から物流までのアドバイスをする、といったコンサルティングやセールス的な要素が強いのが特徴です。
河野氏は、自社のCS体制を、ユーザーへのファーストコンタクトからはじまり、プランナー、コンサルティング、最終的にはパートナーになれるモデルにしたいと考えています。入り口であるファーストコンタクトについては、「ウェブでも、対面でもファーストコンタクトは大切です。最初のファーストコンタクトでなにを発するかはとても大切で、ここをどう工夫するかで離脱率を最低限食い止めることができます。離脱率を下げることは、次の生産やデリバリーへとつながっていきます」と自身の考えを述べ、CSにおけるファーストコンタクトの重要性について説きました。
漢氏は「Backlogサポートチームのこれまでとこれから」というテーマでヌーラボのカスタマーサポートの変遷ついて語りました。
漢氏が所属するBacklogのカスタマーサポートチームの主な業務は、お客様からの問い合わせ対応、社内メンバーからの技術的な問題についての質問、不具合の調整を行うというもの。合計5人で週に60件の問い合わせに対応しています。
2014年までは、作業を技術的な問い合わせ・契約周り・使い方と問い合わせの3つに分類し、各人がそれぞれを担当していました。現在は、問い合わせ増加に伴い人員を増やして組織化を進めています。漢氏はそこで生じた2つの課題について語りました。
一つ目は「タスクの分担の課題」。人員の増加に伴い、分担しながら担当者の負担を減らしていこうと業務を進めた所、逆に上手く機能せずに、担当領域が重なるところが出てくるようになってしまったそうです。また、これまでは個人の裁量で仕事を進めていましたが、お客様へ提供するCSの質にばらつきが生まれていました。
対処法として、社内のツールと外部ツールを導入しています。社内ツールには、Backlogを利用しており、主にお客さまからの問い合わせ管理に活用しています。「課題の自動登録機能」を活用することで、問い合わせフォームから問い合わせがきたら、Backlogに自動的に課題が上がるようにしています。課題の共有漏れを防止と、担当者にも即時メンションをしやすいのが特徴です。他には、検索機能を活用することで、積極的に引き継ぎ文書を作らなくても履歴が対応のノウハウが自然と蓄積されていきます。
社外ツールには「Trello」も活用しています。これは、縦のレーンごとに区切られている看板に、タスクを割り振り右にスライドしていくことで進捗を管理するというもの。導入後、課題をどのようにしたら完了するか、タスクステータスをいつどのように動かすのか、チームの中で共通認識しやすくなり、課題の進捗管理がしやすくなりました。
二つ目に「リモートワークでのコミュニケーションの取り方」。カスタマーサポートチームの一人は現在リモートワークをしており、漢氏も時々リモートワークをすることがあるそうです。その時に、ミスコミュニケーションや現場の温度感が伝わらないといったことに頭を悩ましていたそうです。
この対処法については、Backlogを活用しています。Backlogチームは朝会を設けており、対面でのミーティングもできるだけ入れています。週次での振り返りや対応の改善の機会なども意識的に作るようにしています。振り返りの内容は、問い合わせのスループット(単位時間当たりの処理能力)やリードタイム(課題登録から完了までに必要な時間)の計測です。これまで計測している限りでは、週のばらつきこそあれど、一週間に60件から70件の課題を完了できています。特に時間がかかった課題については、振り返り時になぜ時間がかかったのかを振り返るようにしています。
「一行メールはツライ」CS 担当者の本音が赤裸々に語られたパネルディスカッション
ここからは、登壇者たちがCSについて語ったパネルディスカッションをお届けします。パネルのモデレータはヌーラボ代表 橋本が務めました。
ーーCSはどのタイミングで組織するべきだと思いますか?
スタディスト 豆田氏:Teachme Bizの場合は、3年経ってツールや運用などが固まったタイミングでCSを入れました。ユーザーが少ない段階では、CSは唯一のお客さんとのマッチポイントです。顧客がなにを求めているのか、役員層がそれを感じつためには、顧客との距離が一番近い場所に身を置くことが重要だと考えました。yammerをメンバーの全員が見れるようにしたのも、そうした意図があったからです。なるべく顧客の温度感を感じられる仕組みをつくって、その仕組がある程度回ってきたタイミングで外部の専任を入れるのが良いと思います。
シタテル 河野氏:弊社はまさにいま組織化をしようとしているタイミングです。外部委託だとリーズナブルだけど、問題が起きやすい。大事な取材依頼なども誤って省かれてしまうことも多く、入り口からCSに対してしっかりと責任を持つために立ち上げました。
スタディスト 豆田氏:僕も当初は外注していたのですが、社名を間違えていたり、大切なメールが弾かれてしまったことがよくありました。その経験から、一番最初の前さばきは社員がやった方がいい判断しました。
ヌーラボ 漢氏:僕は会社側で組織化が進められたので、組織化された側の話しになります。人が増えていき組織化が進んでいく際に気をつけたのは、安直に仕事の量を分けようとしないこと。ただ、これをしっかりと教育してやろうとすると、無駄がでてきたり、だれがやっているのかわからないという状況が起きてしまう。そこら辺の方向をしっかりと定めた上で、ひとを配置していけたらいいと思います。
ーーどういう問い合わせが大変ですか。
ヌーラボ 漢氏:Backlogの問い合わせではなく、OSや他のソフトウェア側の質問に時間がかかってしまうのが大変だと感じますね。自分が調べる必要があるので、わからなかったらわからないと返答してしまうし、自分が出した答えが正しいのか不安に思うことが有ります。
シタテル 河野氏:長い期間の顧客対応は大変だと思います。半年間対応しているお客様がいるのですが、生地を素材の段階から考えて、デザイナーが入ったり、工場の規模が大きかったりと色々な要因が重なるのですが、毎日そのお客様のことを考えてしまいますね。
スタディスト 豆田氏:一行メールが大変だと思います。「動かない」と一言だけくる時があり、対応に困ることがあります。さらに、返答しようにも、ケータイから送信していて、こちらのアドレスを受け付けていないパターンもあります。弊社のサービスは電話番号を載せていないので、基本的にメール対応です。しかし、サイトの方に電話番号を載せていて、今回の件のように、こちらから返事を出しているのに先方に届かず、誤解が生じてしまい、先方からクレームを受けることもあります。
モデレータ 橋本:基本的にLINE感覚なのかもしれませんね。
シタテル 河野氏:インターン生がCSを対応していることもあるのですが、一行メールがきたときに、得意先だとしても、それを知らないことで対応漏れしてしまうこともあります。
スタディスト 豆田氏:いくら最初のファーストコンタクトで、身元不明なメールがきたとしても、相手が大切な顧客の可能性もあるので、まずは落ち着いて対応することが大切ですよね。
福岡市役所 山下氏:私たちは依頼者に直接会ってコミュニケーションすることができます。CSの方たちのように、顔を合わずに口頭、もしくはメールの文面でのやり取りはあまり多くありません。そうした部分では、感情が削ぎ落とされて、あらが見えやすくなる分、電話やメールでのCS対応は大変そうですね。
シタテル 河野氏:弊社のCS担当も時々、依頼から製品ができるまで基本的に非対面なのですが、意図的にリアルでお客様に会う場を設けることがあります。実際に会うことはやはり大切です。
スタディスト 豆田氏:弊社は顧客の住所をGoogleマップでピンを落としてそれで、近くにいるときはアポイントを取って直接訪問することがあります。これを知り合いのB2Bの会社に伝えた所、どうやらそこもやっていました。「どないでっか電話」という名前で、3ヶ月に一回お客さんに連絡をとったり、食事に行く機会を設けているそうです。一見すると、電話やメールでは問題ないようにみえるものでも、直接会ってお話をお伺いすると細かいところでつまづいてしまっていることがあります。それに対してちょっとアドバイスをしただけで順調に回りだすことが頻繁にあります。現在人を増やしてCSの組織づくりを進めていますが、今後は、こうした直接対話の機会にも積極的に力を入れていきたいと考えています。
ヌーラボ 漢氏:直接対面ではなかなか少ないのですが、「Backlog Live Q&A*」というかたちで対面することがあります。お客様から連絡があったときに、LiveChatでお客様と画面をつないで、Backlogの操作方法やお困りごとに対して解決策を提案する取り組みです。その際に、解決するのが難しい内容でも、代替案をいくつか出して解決に一番近い策をお客様と考えていくこともあります。お客様の声を生で聞くので、相手側に立った気持ちを考えることができるようになります。
*2019年1月にBacklog Live Q&Aは廃止いたしました
ーー効率化や時短、満足度向上といったCSを行う上でこれまで使っていて良かったツールは何でしょうか。
ヌーラボ 漢氏:BacklogやTypetalkも良いと思いますが、Trelloも良いと思いました。誰がみても同じインタフェースなので見やすいといったメリットがあります。デモンストレーションなどをする際はGoToMeetingやSkypeも良いと思います。
スタディスト 豆田氏:CSの段階でメール、チャット、電話の3つを使い分けています。メールの問い合わせは通常のサポートです。有料のプレミアムサポートでは、チャットワークを使ってリアルタイムサポートもしています。チャットワークにはビデオサポートもあるので、チャットだけでは解決しない場合はビデオでつなげて即解決することが多いですね。また、事象を解決する際に電話の方が早い場合は、電話で対応することもあります。
ーー最後に、CSにはカスタマーサクセスという意味合いも込められており、ただサポートをするだけでなく、最終的には相手から信頼を得て、アドバイザーになり、顧客教育ができている状態を生み出すことが大切だと思います。社内でCSをやっていて褒められた事例はありますか。
スタディスト 豆田氏:社内で褒められたことはないですが、カスタマーサクセスで言うのであればそれは成功だと思っています。わたしは、自分たちの開発の都合など社内的なことでお客様の満足度を上げるというのは一番良くないと考えています。お客様から要望を得た時に、自社のツールで実現できないときは、喜んで他のサービスを進めるというのはよくやっています。Teachme Bizの様に企業のマニュアルを整備することに特化したサービスは、会社全体の業務の効率化や解決策になりきれません。なので、いろいろなツールを組み合わせる提案をします。お客様はその時は離脱してしまいますが、長期的に見るとのちに相談役のようなポジションになれます。
シタテル 河野氏:先ほどわたし自身もCSに携わっているとお話しましたが、実際にやってみて、CSに携わる人たちがどれほど多くの案件を的確かつ迅速に対応しているのか実感しました。彼らはクライアントや工場の板挟みになってしまい、どうしても能動的な対応に振り回されることが多くなってしましいます。そのような状況でも、自発的に個人レベルで計画を立てていることが素晴らしいですね。なので、CS担当者が何かを達成した時は必ず褒めています。最近、CSの活動を支えて顧客情報を管理するシステムであるシタテルコントロールシステムの開発にCS担当者を混ぜてリアルタイムでフィードバックをする仕組みを作りました。ただ対応するだけでなく、開発部と業務改善のための仕組みを共同開発をするといった事例を構築して、関係づくりをすることで、会社をよりよくしようという思いを芽生えさせた良い事例だと思います。
ヌーラボ 漢氏:弊社では、チャットツールのTypetalkにTwitter上のお客様からの声を反映させる仕組みを作っています。全社員がみているので、なにか褒められたことがあったときに、全社で共有ができます。また私自身が行っている社内の雰囲気作りとして、仕事を任されたときなどは必ずありがとうございます、という言葉から始めるように心がけています。CSはそうした些細な気遣いがチームワークを円滑に進めるための潤滑油になると考えています。