働き方改革の一環としても注目され、導入企業も増えつつある「 リモートワーク 」。ヌーラボは、福岡、東京、京都、そしてニューヨークと拠点を分散して開発を進めていることもあり、リモートワークのメンバーも多数います。そういった背景を踏まえて、リモートワークが出来る環境を作るために苦悩するヌーラボの代表とスクラムマスターに「働き方」に対する考え方を話してもらいました。
代表取締役 橋本
ヌーラボ代表。普段は福岡本社にいながら、東京・京都支社へは数ヶ月に1回出張をしている。
Backlog スクラムマスター 中村
福岡・東京・京都に散らばる Backlog チームをまとめるスクラムマスター。日頃から円滑なチーム運営やコミュニケーションを行うために、努力している。取り組みの紹介などはこちらから。
ヌーラボの ”まだまだ道の途中” なリモートワーク事情
– ヌーラボにとって「リモートワーク」ってずばり、どんなものなんですか?
スクラムマスター 中村 (以下、中村) : いざというときに利用できる制度、という位置づけですよね。ヌーラボには家庭を持っているメンバーが多いこともあり、一定期間出勤できない事情が出てくることは避けられないので。
代表取締役 橋本 (以下、橋本) : そうですねー。例えば、顔を合わせていれば数分で終わる会話さえも、会社に出勤していないメンバーのためにオンラインのログで残す必要があるなど、大変なことは当然ありますよね。もちろん、出勤していないメンバーはキャッチアップしていかないといけなくて、そこに多くの時間を割くことになる一方、仕事のプロセスがあまり見られないので成果が重視されすぎてしまう辛さがある。そういう風に、出勤するメンバー、しないメンバーで、それぞれの目線でアンフェアになってしまうことも事実で、そこはみんなで頑張ってバランスをとっている、という状態です。
中村 : Backlog や Typetalk 、 Cacoo を使いながら、そういった情報の不均衡を限りなく無くせるように努力している、というのが現状ですよね。(笑)
– 今はまだ「検証の途中」というような感じですか?
橋本 : うん、その通りです。「リモートワークの制度が整っているから、いつでも誰でもリモートワークに切り替えていいよ!」という状態にはなっていないし、やはり事務所にいなくちゃいけない仕事や、事務所以外ではやってはいけない仕事もあるので、誰でもリモートワークしていいってことには、今後もならないんじゃないかなぁ。基本的には出勤して、同じ場所で仕事をする方が、やっぱり効率良いと思っています。
中村 : ヌーラボが拠点を増やしたり、採用を積極的にしてきたり、色んなところで働くメンバーが増えたという流れのなかで、あくまで副次的に柔軟な働き方が許容できるようになってきた、という印象ですね。
– 一旦、言葉の定義を揃えたいと思います。
中村:ヌーラボは日本国内だけでも東京、福岡、京都と3つ拠点がありますね。だから、「分散拠点」は僕たちにとっては日常の風景です。「リモートワーク」は、「基本は出社しない」働き方ですね。「在宅勤務」は、基本は出社するけれども、状況に合わせて「今日は出勤せず、外部から仕事をさせてください」というオプションを選べる、といった働き方。
一極集中 | 全ての社員が同じ場所に出勤する勤務形態 |
分散拠点 |
2名以上集まる拠点に出社し、 拠点が複数ある状態で協働する勤務形態 |
在宅勤務 |
基本は出社するが、状況に合わせ、例外的に 出社しないというオプションを選ぶこともできる勤務形態 |
リモートワーク |
基本は出社せず、 オンラインのコミュニケーションを通して協働する勤務形態 |
橋本 : この定義に則って説明をすると、現在ヌーラボには複数の分散拠点があります。各拠点の各社員の状況に応じて、会社以外からも勤務が可能な在宅勤務 は柔軟に認めているし、一部リモートワークで働くメンバーもいる、という状態ですね。国内だけじゃなく、台湾やアリゾナにもリモートワーカーがいます。
マネジメント上では、「見えないこと」が最大のリスク
– 実際、「分散拠点」が日常的なヌーラボでは、いろんな場所でヌーラバーが働いているという状態が当たり前ですよね。同じ場所にいないからこそ生じる苦労などはありますか?
中村 : もちろん、あります。現在僕は「スクラムマスター」として2つのチームを俯瞰して見る立場にあります。プロジェクト全体を見渡した上で、スケジュールを把握して進捗がよくなさそうなところがないか、理解が追いついていないメンバーがいないかなど、常に気にしなければなりません。
橋本 : メンバーのみんなが、「森」を気にすることなく目の前の「木」に集中できるように、空から「森」を見ておく役割、という感じですよねー。
中村 : まさにそうです。全体を見渡すことで、個々のタスクを別々に行っているだけでは見落としがちなリスクに気付くことができるのですが、その上で最も困るのは「見えない」ことです。
– 見えないこと、とは?
中村 : 僕は普段東京にいて、 Typetalk や Backlog を用いて福岡や他の拠点のメンバーとコミュニケーションを図っています。しかし、例えば福岡のチームが行ったオフラインの会議で決定したことが、Typetalk や Backlog 上で見えなかったとすると、本来把握しておくべきだったものを見落とす、ということが起き得ます。
– なるほど。対面の雑談で方向性が変わる、というようなことも有り得ますしね。
中村 : そう。そういったことが少しでも起きないようにするため、 Cacoo で作業を見える化するための「カンバン」を作り、デイリーで会話する場を作るなどしていますが、それでも距離があると、オフラインの会話を拾うのには当然ですが限界があります。
橋本 : イキッコ(注:中村のこと) は、その辺りかなりケアしているよね。僕はオフラインの会話までケアできない。オフラインの会話やビデオチャットは、給湯室や喫煙室の会話と同じというか、Typetalk とか Backlog とか、オンラインに上がってテキストなり図なりで、みんなが見ることが出来るもの以外はオフィシャルなものではないから(笑)。
中村 : (笑)。僕がスクラムマスターという立場で、プロジェクトの全体を把握しなければならないという状況があるから尚更そうなんだと思いますよ。
正直に言うと、本人も周りも間違いなく大変
– では、橋本さんは、オフラインでの会話や動きはほとんど気にせず、オンラインで把握するということですね。
橋本 : そうです。拠点が複数あって、リモートワークのメンバーもいるとなると、当たり前だけどフロアを見渡して全員の成果が把握できるなんてことはありません。だから、僕は Backlog で、メンバー個人の「最近の活動」を見ます。課題に紐づいて、どんなことをやっているかが分かります。例えば何日も課題のステータスやコメントに進捗がないとか、ほとんど課題の完了が上がっていないとかだと、気にします。
– 分散拠点や在宅勤務は、基本は自分以外の誰かがいますが、リモートワークは1人ですよね。より「オンラインでの積極的な情報発信」や「成果」「パフォーマンス」が求められる印象があります。
中村 : 「成果」「パフォーマンス」が求められるのはリモートワークでなくても同じですが、大きな違いは、まさに「自分以外の誰かがいるかどうか」かもしれませんね。周りの人がヘルプしやすいし、当人も助けを求めやすい。
橋本 : そうですね。リモートワークは分散拠点が1つ増えただけとも考えられるし、ヌーラボにおいてはそこまで特別なことではないのですが、それでも1人だけだと何かと大変ではあるかもしれないですね。
– ここまで、「同じ場所にいないからこそ生じる苦労」についてお聞きしてきましたが、「分散拠点」「在宅勤務」と比較しても、こと「リモートワーク」に関しては苦労が多いように感じます。
中村 : うん、間違いなく大変ですよ。前提として、情報をオンラインで共有する意識を、本人はもちろん周りも持たなくてはなりません。そうでなければ情報の不均衡が起きてしまうからです。それに加え、リモートワークだと隣に人がいないので、ヘルプを出しづらく もらいづらい状況ということになります。
橋本 : 別の観点で、何かうまくいかなかったときに、「リモートワークだからうまくいかなかったんだ」という風に本人も周りも思ってしまう、ということもありますね。問題の本質は「どこで働いているか」ではないのですが、リモートワークのせいにしてしまい、問題の根本原因が議論されなくなる。
ヌーラボにとっての「リモートワーク」を考えよう
– では、「リモートワーク」のメリットは何なのでしょうか。
中村 : リモートワークのメリットとして僕が最初に思うのはやはり「採用」です。事情があり出社できないような優秀な方をも採用できる体制にあるのは、ヌーラボの強みです。
橋本 : それは間違いないね。リモートワークとは違うけれど、この6月にヌーラボにジョインした小久保さん(@yusuke_kokubo)は近い例かもしれません。限りなく出社できない距離に住んでいても、「たとえ毎日出社できなくても、彼となら一緒に働きたい」と思えた人だったので。
※小久保 祐介プロフィール:
20代でSIerを経験した後、当時名古屋を代表するスタートアップ企業の一つであったMisocaの開発に携わる。2017年6月より株式会社ヌーラボのBacklogチームにジョイン。名古屋に生活の拠点を起きつつ、京都支社に所属するヌーラバー。
– 最後に、ヌーラボとしては、これからの「働き方」についてどう思っていますか?
橋本 : これまでお話ししてきたように、分散拠点・在宅勤務と比べても、リモートワークに課題がないとは思っていません。現時点では、積極的にリモートワークを導入しているわけでもありません。セキュリティーの観点や、社員の平等性の観点、その他ガバナンスだとかコンプライアンスなど、企業としては大変なことが山盛りです。
だけど、そこで働く「個人」に焦点を当てたとき、リモートワークの良いところは色々あります。突発的に起きた暮らしの変化に対応できることをはじめとして、個人の生き方に働き方をフィットさせていくのは、僕は大賛成なんです。この辺りが柔軟な会社って良いな、とも思ってます。
だから、 Backlog や Typetalk 、 Cacoo をより良いプロダクトにしていくこともそうだし、「働く」を楽しく円滑にするための仕組みづくりを行なっていきたいと思っています。
———-
聴き手、アンヂェラ 執筆、Meggy
※記事中の内容は全て2017年5月時点のものです。