Backlog開発チームの藤田です。ヌーラボで「リゾートワーク」として取り組んでいる、ヌーラボの社員が宮古島の小中高校にお邪魔して、授業をするという制度に参加しました。
本記事では、「問題解決」をテーマにした授業の内容と生徒さんたちの模様ついてお届けします。
目次
「問題解決」というお題について
この制度についてヌーラボと宮古島市で話し合っていた中で、先方から挙げられていた問題意識の中に「問題解決力」というキーワードがあったので、それに乗っかった形で提案しました。
ただし内容について先方からは一切指定がなかったので(受け入れる学校側にも結構勇気がいることじゃないかと思います)、僕の思うままのワークショップを自由にやらせてもらいました。
ワークショップの様子
今回の授業は宮古島市立久松中学校2年生全員の42人が対象でした。なんか大人が多いと思ったら、2年担当の先生方全員と校長先生も参加されてました。とても熱心な学校で頭が下がります。
久松中学校にはOA室という部屋があり、プロジェクターとスクリーンが常備されています。ワイヤレスマイクも用意していただき、準備は一瞬で終わりました。ありがたかったです。
それではワークショップの様子をざっとご紹介します。
各スクリーンショットから、実際に使用したCacooの画面にリンクしてますので、全ページを見たい方はクリックしてください。
導入:「問題解決」ってなんだろう
軽く自己紹介したあと、問題解決とはなにか、という話から入ります。問題解決について語っている人がたくさんいる割に、みんなポジショントークで違うことを言っててあてにならない、なので、この授業も鵜呑みにしないでくださいね、とお願いしました。
僕なりの問題解決の定義
どうやら世の中に決まった定義がないので、僕なりの定義を勝手に提示してみました。
一つの問題に対して、とりうる「どうにか」は無数にあることを示しました。それから、関係者にはその原因を作ってる人(この場合は猫)も含むんだよ、その人もハッピーにするのが本当はいいんだよという話もしました。野良猫を全部殺してしまえばうるさくはなくなるけど、それじゃ猫や、猫をかわいがってる人は不幸ですからね。
このへん一般的な話と違ってきてるかもしれないですが、信じるところを突き進むスタイルで。
ただ、「どうにかする」を英訳すると「manage」で、「問題」を「プロジェクト」、「関係者」を「ステークホルダー」と言い換えると、結局プロジェクトマネジメントの話になるので、これもやはりポジショントークというわけです。
解決する問題を列挙
「さて、ここまでで質問したい人!」「……」「じゃあ早速始めていきましょー」と流れるような展開で、生徒さんたちに身近な問題を挙げてもらいました。もともと明るい雰囲気だったので、どんどん手を挙げてくれてスムーズに進行しました。
これは実際挙げてもらいながらリアルタイムにCacooに書き込んだものです。小さいものから大きいものまで、いい感じに揃ったのはラッキーでした。まさに思惑通り。
問題を2つ選択してチーム分け
挙げてもらった問題の中で、どれに取り組みたいか生徒さんたちに挙手してもらいました。
- クラスの何人かの居眠り
- 外国人観光客のマナーが悪い
の2つが人気が高かったため、それぞれのテーマに分かれて取り組んでもらうことにしました。社会的な問題とクラスの中の問題というサイズの全く違う問題が残ったのも思惑通りすぎて驚きました。
痛恨の反省
その場で手を上げた人が多かったのと、なんでもなさそうな出発点から思いもよらない着地点にいく可能性を感じて「居眠り」を採用してしまったのですが、少数の人を吊るし上げるみたいになりかねないので他のテーマにすれば良かったと途中で気づきました。そのとき瞬時に配慮できなかったのは本当に反省です。
その場の雰囲気としては授業中に居眠りしている生徒さんもポジティブに参加しているように見えましたが、先生方がフォローしてくださることを願っています。
さらにグループ分け
続いて、有効な議論ができる人数は7人が限度です、と説明して、さらに小さいグループに別れてもらい、議論しやすいようにテーブルも移動させて島をつくってもらいました。
古来からの学級会スタイルの議論はダメな点がいくつもありますが、一番ダメなのは人数だと思います。クラス全員で一つの議論って無理ですよね。
ルール説明
議論のルールについても、確認しておきます。一般的なブレインストーミングのルールです。今回は真剣に結論を出すのではなく、話が広がっていく様子を体験してもらうのが目的なので、これがいいでしょう。
問題の基本情報
各グループに、あらかじめ枠だけを書いた模造紙を一枚ずつと、付箋紙たくさんを配ってスタートです。
まずは考えやすいところから、「いつ」「どこで」その問題が起こっているか、付箋紙に書いて貼ってもらいました。
続いて、その問題があると何が困るのか?何がいけないのか?についても書き込んでもらいました。
「居眠り」のグループで出た意見
- 先生が注意したりして授業が止まる
- 隣の人が注意するの大変
「外国人観光客のマナー」のグループで出た意見
- 店の前にゴミがたくさん
- 陳列棚がぐちゃぐちゃになる
やはり身近な問題なので具体的で大変よろしい感じです。
関係者の定義
問題の関係者を挙げてもらいました。
「困っている人はだれか」というところで、生徒さんたちの中から「みんな!」という声が上がったので「もうちょい具体的に。」といくつか例を挙げたら、あとはスムーズに列挙できていたようです。
このあたりから、先生方がすごく積極的に各グループを回って、一緒になって参加されていました。校長先生が一番ノリノリでした。
ゴールの定義
続いて、どうなればハッピーか?ということを想像して書き込んでもらおうとしました。
しかし、予想通りというか、問いかけ方がまずかったのもあるのですが、「理想的なゴール」と、どうすればいいのかという「解決法」がまぜこぜになって書き込まれていきました。もう教育的過ぎてニヤニヤが止まりません。
手段と目的の分離
休憩のあと、「これは最後にやるはずだったんですが」と前置きして、「ゴール」の枠に貼られているものから「解決法」を取り除いて別の枠に入れてもらうことにしました。
各グループを回って「どうなればハッピー」の枠からいくつかの付箋紙を「解決にいたる道筋」の枠に移して見せながら、
「これ、大人もほんとにみんなやるんですけど、最終的なゴールを考えてるのに手段が出てきちゃうんです」
「(解決法の枠に入れた)これをやることによって、どんなハッピーな未来になるのか、をゴールの方に書き込んでください」
「できるだけたくさんの関係者がハッピーになった状態を想像して描くのが大事です」
「外国人観光客を全員追い出すっていう手段もとれますが、それだと、追い出された人はアンハッピーですよね。外国人観光客もみんなハッピーなゴールを想像できますか?」
「今居眠りしてる人もハッピーになれる未来はなにか想像できますか?」
といった感じでちょっとしつこく説明しました。ここは一番大事なので少し時間を使いました。先生方もとても真剣に「これは手段じゃない?」「この結果どうなるのかというと」とグループに混じって考えられていました。
ゴールの共有
ここまでで、各グループごとに、ゴールを一つに絞ってもらいました。いろいろ貼ってある付箋紙の一つを選んでもいいし、くっつけて別のものにしてもいいと伝えて、絞ったゴールを発表してもらいました。
「居眠り」のグループのゴール例
- 寝ない
- 授業が面白くて寝る暇もない
「外国人観光客のマナー」のグループのゴール例
- 道路とかがきれいになる
- 日本人も外国人も一緒に気持ちよく店が使える
やはり期待していた通り、グループごとにバラつきが出てきていました。いい感じです。
もちろん、実際の仕事の議論では、参加者全員でゴールを共有することがとてつもなく重要なのですが、この授業ではそれを伝えることは重要視していないのでサラッと次に進みました。
それでもいくつかのグループは、ちゃんとここで決めたゴールを中心にその後を考えていたようです。賢いですね。
問題が起こる原因の考察
問題の掘り下げをもう少し行うため、原因について考えてもらいました。
いろいろ考える前に幸せな未来を想像するほうが自由にゴールを描けるかと思ってこの順序にしたのですが、ちょっと流れがスムーズでなくなったので、これはゴールを考えるより先にしたほうが良かったかもしれません。
また、このときに、ついつい外国人観光客のマナー問題のグループに
「なぜ店の前にゴミを捨てちゃうんだろう?自分の国でも家とかでも捨ててるのかな?」
と口を出してしまったのですが、これはその後の思考を誘導してしまったかもしれません。ランダムな結論を出してもらうのって難しいですね。
再度、解決方法
もともとの予定ではいきなり解決方法にいかず、マイルストーンとして半年後とか1年後の姿を描いてもらおうとしていました。しかし時間がたりなくなったためスキップして、解決方法を考えてもらうことにしました。そ、想定通りだし……
先ほどゴールと手段を分離したことによって、グループ内で「なぜそれをやるのか」「それをやるとゴールに行けるのか」を話し合うべきなんだということがクリアになっている様子がちらほら見受けられました。そうです。まずゴールを決めて、そこに行くための道筋を考えるというやり方が、まさに今回体験してほしかったことなのです。
最後に各グループに、考えた解決方法を発表してもらいました。いざ発表するときになって、せっかく考えたことのほとんどを切り捨ててシンプルなものだけになってしまったのはご愛嬌。
「ほかには、こんな方法も出ていましたね」
と、僕の方でとりあげてみんなで面白がってもらいました。
とても書ききれないほどの方法が提示されていたので、いくつか抜粋します。
「居眠り」のグループの解決方法の例
- 寝てる人は放置する
- 「絶対寝てはいけない授業ゲーム」を開催する
- 全員居眠りしなかったら宿題を1つパスできる
- 先生が頑張って授業を面白くする
- BIGBANG、ENIMOが先生になってくれる
- 深夜にゲームしてる時間を制限する
- まぶたにテープ
- 起きたら眠気飛ばす系飲料(商品名は省略)
居眠りしている人がいるとなぜ良くないのか→寝てる人を起こそうとして授業がストップするから→なら放置して授業を止めなければいいのでは。という流れで一つの手段が提示され、でもそうしたら放置された人は成績が下がってハッピーじゃない、という流れも生まれていい感じの議論になっていました。
また、なぜ居眠りするのか→授業がつまらないからだ→授業が面白くなれば居眠りしないのでは。という流れからも手段が提示されました。そこに先生も一緒に入っていたのが印象深かったです。信頼関係ができている証拠ですね。
「まぶたにテープ」「起きたら眠気飛ばす系飲料」というのも、人間の心がけや懲罰よりもテクノロジーで解決する、誰も不幸にならないという点で僕の好みではあります。実効性があるかどうかは、試してみてからふりかえればいいのです。
「外国人観光客のマナー」のグループの解決方法の例
- マナーに関する各国語のガイドブックを作って配る
- ぱっと見てわかりやすい形でゴミ箱を設置する
- もっと多くの人が外国人観光客とコミュニケーションできるようになる
- 国境を無くす・言語統一
- その他多数の意見
こちらは、なぜ店の前にゴミを捨ててしまうのか→文化が違うからではないか→日本のマナーを知ってもらえるようにしよう。という流れや、ゴミ箱が見つからないからではないか→ゴミ箱をちゃんと設置しよう。という違った流れが生まれており、単に感情にまかせて「外国人を追い出せ!」と言ってしまうよりずっと平和で賢い方法が提示されました。
また、かなり早い段階で外国人観光客とのコミュニケーションが足りていないのではないかという点にも気づけていて、単なる練習としてのワークショップにとどまらない可能性を感じさせました。
ワークショップの最後に
今日お伝えしたかったこととして、時間中に何度も繰り返した「できるだけたくさんの人にとってハッピーなゴールを描くこと」や、今回実際に体験できた、「解決に至る道筋は1つではない」ことを再度強調して、ワークショップを終了しました。
終了後に生徒さんからお礼の言葉をいただきました。「学級会でもこういうことを試してみたいと思います」と言ってくださったのは嬉しかったです。
反省はたくさんありますが、概ねイメージしていた通りの流れで終えることができました。ご協力いただいた久松中学校様、ありがとうございました。
次の日の新聞に載りました
授業の休み時間に取材してくださった宮古新報さんに記事が載ってました。いいおみやげができました。子どもに自慢します。