こんにちは。ヌーラボの開発部インハウスシステム課の業務ハック担当エンジニアSamです。
私が担当している業務ハックをもっと上手く進めたくて、まずはDXについてきちんと知ろうと思い、先日DXアドバイザー検定(スペシャリスト)という資格を受験しました。試験の概要はざっと下記の通りです。
DXアドバイザー検定(スペシャリスト) | |
運営 | 一般社団法人中小企業個人情報セキュリティー推進協会 |
試験範囲 |
|
合格基準 | 問題の正答率70%以上 |
受験対象者の人物像 | ITを含めた広範なリテラシー(基礎知識)を有しデジタイゼーションを推進できる。 その上で、デジタライゼーションに繋げるための実務的な知識の一部も保有している。 |
あ、ちゃんと受かりましたよ!^^
DXは一般的には「デジタル技術によって組織を変革する事」と言われていますが、今回の試験勉強を通じて実際はそれではまだ足りないこと、更に「DXへの階段の上り方」が整理できたので、このブログにまとめたいと思います。
目次
業務ハックのお仕事
私が所属しているインハウスシステム課は2つの業務を担っています。一つはデータ基盤の構築・運用を中心としたデータ活用とデータマネジメント。そしてもう一つは私が担当している業務ハックです。
業務ハックとは、簡単に言えば業務を改善するお仕事です。ただ、エンジニアが担当することで、その手段に「システム」を選択できるメリットがあります。解決手段として、外部システムを導入するだけではなく、自分達でシステムを作るという手も打てるわけです。
とは言え、何でもシステム化していくわけではありません。そりゃぁシステムを作るのはとても楽しいですけどね。ですが「システム化」が目的ではなく、あくまで業務改善が目的のお仕事です。時には仕組みを変えるだけで「何も動くものを作らない」こともあります。
システムを作るのは楽しいですけどね(2回目)。
DXの定義が変わっているのをご存知ですか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)の一般的な定義はきちんと統一されてはいませんが、冒頭で述べたように「デジタル技術によって組織を変革する事」だと捉えられてる場合が多いです。元々は2004年にエリック・ストルターマン教授(スウェーデン・ウメオ大学)によって提唱された『ITの浸透によって、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること』というのがベースになった考えです(参照:Erik Stolterman, Anna Croon Fors (2004) “Information technology and the good life”, Information Systems Research Relevant Theory and Informed Practice)。
なかなかワクワクする素敵な発想だと思います。そして日本では平成30年に経済産業省がこの定義をベースとして、DXをより企業が取り組むべきものとして下図の様に「DX推進ガイドライン」中で定義しました。それは令和2年11月9日策定の経済産業省発行 デジタルガバナンス・コード 2.0でも同様の文言で定義されています。試験の時はDX推進ガイドラインの内容で学習していたのですが、その後調べていたら実は同じ令和2年に「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和2年7月17日閣議決定)にてDXの定義は別の表現になっていました。
DXの定義、変わってるんですよ。
長い。長いけど新しい方がもっと楽しい事を言っていると思いませんか。文章だと少し辛いので、2つの定義をそれぞれ図に起こしてみました。
こちら↑がこう↓なります。
見比べると類似の内容ではあるもののステップが変わっているんですよね。新しい方がより顧客への価値創出に重きを置いている事がわかると思います。「組織を変革する事」ではまだ足りなかったのです。
DXへ辿り着くための階段
DXはデジタル化の一種です。デジタイゼーション(Digitization)とデジタライゼーション(Degitalization)を和訳すると「デジタル化」であるためか、デジタル化とは「デジタイゼーション」か「デジタライゼーションまで」だと思われがちですが、3つ全てがデジタル化であり、デジタル化のそれぞれの段階を意味します。
下図にあるようにデジタル化には段階があり、DXはその最終段階にあります。最初の2段階を国連開発計画(UNDP)では図の四角の中の文章のように定義(図中文章引用元: 総務省「デジタル・トランスフォーメーションの定義)しています。
階段状になっていることから判る様に、いきなり最上段のDXから始めることはできません。デジタイゼーションが出来ていないのであれば、アナログデータのデジタル化から行い、その後でデジタライゼーションを行い、最後にDXに進まないとDXに必要な武器が足りないのです。
大切なのは順番に階段を上がっていくことです。
とは言え、順番に階段を登るとしてもルートによってはデジタライゼーションを達成するまでが一苦労だったりします。時間がかかるため、業務全体の自動化ができ、組織改革ができたことでDXを達成したと感じるかもしれません。ですが、それが組織『文化』の変革や新たな価値を創出していないのであれば、まだ道半ばです。もう一段登りましょう。
DXは単独スキルのチームだけでは成し遂げられない
DXを成し遂げるには段階があるのですから、当然「DXしようよ!」と言って今日明日でできる話ではありません。それなりの時間がかかるものです。しかもその各段階には異なるスキルが必要です。
最初のデジタイゼーションではシステムの導入などが必要になるでしょう。その選定、教育、社内ルールの整備を進める人材が必要です。導入するシステムも1種類とは限りません。デジタル化する業務に関する深い知識が必須です。
次のデジタライゼーションでは業務同士を繋ぎ合わせるスキル、システム自動化をする技術者、データ分析チームの発足が重要なキーになります。最初のシステム導入メンバーほど深い業務知識は必要ありませんが、幅広い業務知識や分析スキルが必要になります。
そして最終段階では新サービスの開発、新しい価値の創出と提供、そして競争力強化です。新サービスの開発の為のスキルが上記二つとは異なることは言うまでもないでしょう。
正直、DXを成し遂げるまでに必要とされるスキルが多すぎです。こんなの一人じゃ無理です。一人でやろうとしたら人生何周分経験したらいいのか、想像すらできません。
では、DXと名がつく資格がある人は一人でDXができるのかというとそうではなさそうです。今回DXアドバイザー検定(スペシャリスト)を受験した際に気がついたのは、この試験はテスト範囲が広いということです。冒頭に範囲を書きましたが、ITリテラシー、データサイエンス、ビジネスアナリシス……と幅広いものでした。しかし深くはありません。なのでこれらを知っているからと言って「新しい価値の創出」ができるわけではありません。しかし、各分野の方と対話をし、意思を伝え合い、次のステージへ牽引するに当たっては必要な知識です。中でもデジタライゼーション遂行に役立ちそうです。更に情報マネジメントの知識等、最終的に提供しようとする価値が法を犯すものにならないようにチェックするのに役立ちます。つまり、主役となってDXを進める人ではなく、各段階のハブとなり、アクセルだけではなく時にブレーキとなる人のための試験だったわけです。
つまり、DXを成し遂げるには各段階を主役として動かす様々なスキルの人材が必要であること、DXの資格者であっても一人ではできないことがわかります。
ヌーラボとDX
さて、ここで弊社の話に戻ります。制度変革で終わらず組織『文化』が改革された一例として、ヌーラボがフルリモートワークを導入したことで勤務地条件を廃止でき、出社するか否かを選択可能な新しい働き方が生まれ、定着するに至ったお話をします。
勤務地条件廃止への道のり
ヌーラボがフルリモートワークを実現しようと挑戦を始めたのは上場準備中でした。上場するのにフルリモートとか、なかなか無茶をしていると思われたかもしれません。
ただ、「ヌーラボはフルリモートでもできるんじゃない?」という一つの下地がありました。Backlog、Cacoo、Typetalk、AWS、Google等を活用していたので、出社しなくても仕事ができたのです。既にいくつかのデジタイゼーションが達成できていた訳です。
ただ、問題は労務面の管理です。
労働安全衛生法第66条の8の3
事業者は第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働安全衛生規則第52条の7の3
第1項 法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナ ルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
第2項 事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間 保存するための必要な措置を講じなければならない。
この法律の壁が私たちを阻んでました。
そこで、まずフルリモートワークを叶えるためにヌーラボでは新たに、労働時間の客観的な記録を可能にするようシステム化を行いました。
-
- 勤怠管理システムの導入
- PCログデータ収集システムの導入
- PCログと勤怠システムの記録に差が生じた時の確認システムの構築
- 関連社内規定の改訂
その結果、法令遵守した形でのフルリモートワークが可能になりました。管理面をクリアした状態で始めたおかげで、その働き方は無理なく定着しました。勿論、導入当初には多少の混乱は発生したのですが、多方面の社員の協力もあり混乱の収束は速かったです。やがて問題なく働けるのならと、勤務地に縛られない採用も可能となりました。
こうして今では「福岡」「東京」「京都」以外に住む多くの社員に入社していただくことができました。これを機に社員の働き方は更に自由度を増すことになったのです。
ここで一つ、逆パターンだったことを考えてみましょう。
デジタイゼーションをせず、いきなりDXを始めようとして、いきなり勤務地撤廃を指示したとします。まぁこれがDXと言えるかはさておいて、そんな組織文化改革から始めようとしたとしましょう。
その場合、出社はどうするのかとか、勤怠管理はどうするのかとか、サボっている人がいるかもという議題が後から湧いてくるでしょう。そうなると制度はあるものの「出社できる人は出社してください」等という何の価値も創造していない結末になりかねませんでした。
DXを成功させるには、デジタル化の階段を順番に登っていく必要があるのです。
インハウスシステム課のDXへの関わり方
さて、先程の例で言えば「勤怠関連のシステム化によるデータ収集→管理自動化→フルリモートワーク→勤務地撤廃→出社自由な新しい働き方の定着」という「組織文化の変革」まで実現できたことを考えると、これもまたDXと言えるのかもしれません。
ですが、それはインハウスシステム課だけで成し遂げたわけではありません。
私達は「管理自動化」のデジタライゼーションまでは深く関わりましたが、経営判断を行った経営陣、法律、社内規定をクリアするために動いた人事労務課の方、文化定着のために動いた広報の方、他にも沢山の方が各ステージで主体となって動いたから実現できたのです。
私達だけでDXを成し遂げることなどできないのです。
まとめ
以前、「何をやっているチームかわかりやすくするために名前を変えよう!」と考えた時期があったのですが、「DX」を冠するチーム名をつけることにはメンバー全員が抵抗を感じていました。当時はその理由が言語化できなかったのですが、今回DXについて理解が深まったことで、その理由が「自分達だけでDXは成し遂げられない。DXは複数のチームで協力して行うものであるため、自分達に名前をつけるのが申し訳なかったから」だったのだとわかりました。
DXは「デジタル技術によって組織を変革する事」ではまだ足りず、「新たな価値を創出する」までできてようやく達成といえます。ですからデジタイゼーションやデジタライゼーションの段階で終わってはDXとは言いません。業務の効率化をDXとは呼びませんが、業務の効率化を成し遂げないとDXのステージには上がれません。業務の解像度が低いままいきなりDXから始めても上手くいかないのはその為です。
ヌーラボも2024年1月から「あんしん!Backlog導入支援プログラム」という支援サービスの提供を開始しておりますが、これもいきなりDX始めましょうではなく、ちゃんと順番に、そしてスマートにデジタル化の階段を上れるよう支援するためのものです。最初の一歩目の足をどこに置くかが大事ですからね。
そして、一人の人、一つのチームだけにDXを押し付ける事なく、様々なスキルをもった社員が協力しあうことで、新しい価値を生み出すことが可能になるのです。
デジタル化の過程を順番に、そして様々なスキルを持つ人材が協力することで、私たちはDXの階段を上がることができるのだと、試験を通して整理できました。
今回は資格試験合格の記念に書かせていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。