[出版記念インタビュー] 「ヌーラボの働き方が興味深い理由」実践女子大学 人間社会学部 准教授 松下慶太さん

ヌーラボの人事、Angelaです。みなさん、最近は「働き方」という言葉を1日に1回は耳にするのではないでしょうか。日々のニュースの中でも、あなたの職場でも、何らか働き方に関する話題があると思います。

今回は、「モバイルメディア時代の働き方 – 拡散するオフィス、集うノマドワーカー」(勁草書房、2019年7月13日発売)を執筆・出版された、実践女子大学 人間社会学部の松下慶太先生にお話を伺いました!実は、本書でヌーラボについても非常に丁寧に取り上げていただいています。

松下先生と私、Angelaの出会いのきっかけはTwitter。せっかくなのでこの機会に、松下先生から見たヌーラボについてお聞きしてみたいと思い、お忙しい中お時間を割いていただきました!

 

松下慶太先生のご紹介

1977年神戸市生まれ。実践女子大学人間社会学部准教授。 京都大学文学部・文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員などを経て現職。京都大学文学研究科にて博士(文学)。専門はメディア論、若者論、学習論、コミュニケーション・デザイン。主な著作として『キャリア形成支援の方法論と実践』(東北大学出版会、 2017 共編著)、 『ネット社会の諸相』(学文社、 2015 飯田良明と共編著)、 『キャリア教育論』(慶應義塾大学出版会、 2015 荒木淳子・伊達洋駆と共著)、 『デジタル・ネイティブとソーシャルメディア』(教育評論社、 2012)など。

 

 

拡散するオフィス、集うノマドワーカー

— (Angela):先生、今日はよろしくお願いします。早速ですが、今回の書籍のタイトルの副題「拡散するオフィス、集うノマドワーカー」はとても興味深かったです。人は集まりたいし、集まりたくない (笑) 。本書ではどんなことを取り上げられているのでしょうか?

(松下先生):モバイルメディアやソーシャルメディア、ヌーラボさんの製品でもあるコミュニケーション・コラボレーションツールが普及してくる中で、必ずしもオフィスに行かなくても仕事ができる社会になってきました。こうした流れは、

  • どこでも仕事がついて回るオフィスの「拡張」なのか?
  • オフィスで仕事することの当たり前がそうでなくなっていくオフィスの「拡散」なのか?

そんな疑問が本書の出発点にあります。

(※松下先生の博士論文では、「テクノロジーと学校教育」をテーマとして取り扱っていていたそうです。通信教育は学校教育の機能の「拡張」なのか、あるいは学校そのものを代替する「拡散」なのか?を研究されていました。)

こうした問題意識の中で、

  1. メディア論や場所論など比較的枠組みを設定する理論パート
  2. 現代のクリエイティブオフィスやノマド・ブーム
    また、コワーキング・スペース、ワーケーションなどを取り上げた事例パート

を組み合わせて書いていったのが今回出版した書籍です。

 

 

人は「働きたいように、働きたい」

—  (Angela) :今回の「モバイルメディア時代の働き方」というテーマですが、コラボレーションツールを提供するヌーラボにとっては、切り離せない話題だと思っています。また、本書では、人は「働きたいように、働きたい」のだ、とも書かれています。詳しく教えてください。

 

 (松下先生) :「働く」というテーマについて、学生に聞くと「働きたい」or「働きたくない」の二項対立になりがちです。ただ、よく聴いてみると、必ずしも働きたくないとは思っていない。現在の学生が知っている範囲の働き方に疑問や不安を持っているだけで、その気持ちを「働きたくない」という言葉で表しているだけなんです。

そもそも、学生だけでなく、私たちも含め、人はどのようなスタイルで働きたいと思っているのか。働く場所や時間など、色々な取り組み方があると思いますが、そもそも人が希望しているスタイルはどこにあるのか、ということにも興味を持っています。

テクノロジーを使うことで、私たちは、希望している働き方により近づくことができると思います。その一方で、テクノロジー・人・社会などが相互作用で思いもよらない方向に発展していくこともあります。本書ではその両面について触れています。

 

— (Angela):たくさんの企業がある中で、今回ヌーラボを取り上げていただきありがとうございます。ヌーラボという会社は決して有名ではないと思いますが、どのようにしてお知りになったのですか?

 

 (松下先生) :本書のテーマを研究し始めたのは3〜4年前でした。その際、コワーキング・スペースを調べていく中で、ヌーラボのニューヨーク社について紹介されている記事を読んだのがきっかけでした。

その後、本書の執筆の最中に、ヌーラボが「リゾートワーク制度*」や「General Meeting*」など、まさに研究テーマと合致する取り組みに挑戦しているのを見つけ、Twitterから取材を申し込みました。

 

*リゾートワーク制度:社員の成長機会創出を主な目的とし、ヌーラボ社員が宮古島や北海道・東川町で一時的にリモート就業するのを支援する社内制度。

*General Meeting:ヌーラボの全メンバーか国内外の拠点から゙福岡本社に集まり、一週間ほどかけて会議や情報共有を行う社員総会イベント。

 

ベルリンから帰国したばかりの今年の3月末、
ヌーラボのGeneral Meetingにもご参加いただきました。

 

 

研究テーマとぴったりだったヌーラボの活動

(松下先生) :海外では、従業員個人が、自分のタイミングで休暇をとってワーケーションをしています。日本だとなかなかそれが難しく、会社の制度、あるいは地域の誘致施策等を通して、徐々に整っていくだろうと考えます。その中で、ヌーラボのリゾートワーク制度は、個人や会社だけでなく、地域や学校なども巻き込みながら展開しているのが興味深いと思いました。ワーケーションの日本モデルとして参考になるな、と思いました。

また、リゾートワーク制度の他にも「General Meeting」という活動が興味深かったので、今年の3月に参加させてもらいました。その中の「拠点紹介」という、各拠点の日頃の様子やオフィスを紹介するパートの時間にお邪魔しました。参加して興味深かったのは、各々の日頃の様子を共有することで、それぞれの持ち寄ったパズルのピースをつなぎ合わせるような形で、ヌーラボという会社全体を創り上げ、愛着を醸成するような場になっていたところでした。本書にも書きましたが、まさにセカンドオフライン (=オンラインを前提としたオフライン) 的なイベントだなと思いました。

General Meeting参加後に代表の橋本と記念撮影

 

ヌーラボは、サービスとワークスタイルが重なっている

— (Angela) :ありがとうございます。「General Meeting」の目的の1つに「強烈な思い出の共有」というものがあります。松下先生のおっしゃるようにみんなで1つの何かを創り上げるような感覚は持ちたいと思っていたので、とても嬉しいです。

私はヌーラボに入社してもう3年ほどなのですが、社内にいると他社との違いが見えづらくなってきます。社外にいる松下先生から見て、ヌーラボってどんなところが他社とは違う、変わった会社ですが?

 

(松下先生) :ヌーラボの一番の特徴は、

提供しているサービス = 自分たちのワークスタイル

が重なっている点だと思います。もちろん、サービス提供者なのですが、サービスを享受する顧客との境界線が曖昧だな、と。その結果、ヌーラボが提供・販売しているものは、一つひとつのサービスというよりも「スタイル」なのかな、という印象を持ちました。

 

— (Angela) :はい、まさにヌーラボが目指しているのはそんなところです!代表の橋本も、「General Meeting」の際には、このスライドを使って説明しています。私たちのような会社が提供する「ツール」を導入するということは、その提供者の「フィロソフィー (哲学) 」 を導入するということだ、と。

 

(松下先生) :まさにこの話ですね。「リゾートワーク制度」も、「General Meeting」などを見ても、良い意味で「自作自演」的ですよね。つまり、自分たちが提供するものを、まずは自分たちでトライしているような感覚です。

 

ヌーラボの課題は、泥臭いことをいかに推進するか

— (Angela) :松下先生は、色々な企業をご覧になっていると存じまます。そんな松下先生だからこそ感じていらっしゃる、ヌーラボが今後直面しそうな課題や現時点での懸念点などはありますか?ぜひ教えていただきたいです!

 

(松下先生) :前出の通り、ヌーラボは、「自作自演」なので、「スタイル」が売り物の会社だと思います。それは外からみると一見クールです。しかし、そのクールさに憧れてヌーラボに入社してしまうと、ギャップを感じてしまう人もいるのではないかと思います。文化を創る過程は、たいてい泥臭く、社員のコミットが必要だからです。そのため、ヌーラボのような会社は、この頃よく言われている、「いい人が採用できない」問題よりも、「いい人にどう居続けてもらうか」の方が課題になるタイプの会社だと思います。

とはいえ、変化の速いこの時代に、何十年もずっとチームの顔ぶれが変わらない組織もよくないはずです。会社としての新陳代謝についてどう考えるかはこれから課題になるのではないでしょうか。

 

— (Angela) :まさにそれはヌーラボだけでなく、インターネット業界全般で課題になりそうです。まだ若い会社が多いので、この問題について明確な回答を持った会社は多くなさそうですね。

文化創りの観点では、ヌーラボの中に「Bridge (ブリッジ) 」というチームを2017年から発足しました。大雑把にいうと、会社の文化のエバンジェリスト活動をしようという取り組みです。その活動は、決して簡単なものではないですし、これが私たちの回答だ、という確信もまだありません。こういう泥臭いところは今後も欠かせないんだろうなと思います。

 

(松下先生) :そうですね、泥臭いと思います(笑) また、ヌーラボは福岡に根付いた会社なので、福岡の成長や勢いに比例する面があるのではないかと想像しています。特に、本社が東京にない会社は、会社がある地域との関わりについて無視できないと思います。

例えば、市長が変わったらどうなるか。市の施策が変わったらどうなるか…。今後、福岡だけでなく、札幌や神戸、京都なども含めて、地方企業がどのように街にコミットするかは注目しています。

 

— (Angela) :ありがたいことに、今、福岡市は人口も増えていて、勢いがあります。Fukuoka Growth Next*が提供する今年度の起業家育成プログラムでは、昨年に引き続き社内から5名が講師として登壇します。こういった「福岡市に対しての恩返し」のようなアクションは、ヌーラボとして忘れずにやっていきたいですね。

*Fukuoka Growth Next:スタートアップを支援する福岡市の官民共働型の施設。

 

自由は誰にとっても幸せなことなのか?

— (Angela) :最後に、大きなテーマの質問です。現在、日本も人口減少に伴い、働き方の変革を進めていると思います。さまざまな働き方を認めたい、また「認めざるを得ない」…という葛藤もあるのかもしれません。松下先生としては今後の日本の働き方はどんな方向に行くと思われますか?

 

(松下先生) :近頃、働き方を含めて「ダイバーシティ (多様性) 」という言葉をよく聞くようになりました。ダイバーシティを推進しないと、イノベーションやクリエイティビティは生まれない!という理論です。しかし、この取り組みにはお金やマネジメント含めてさまざまなコストがかかるのはみなさんおわかりだと思います。

今後は、各企業がこの取り組みを行なった結果、「売上とコストどちらが上回るのか」の回答が出始めると思っています。その上で、業種や業態によって、企業のスタイルが二極化していく。これ自体は悪いことではないのですが、この状況に立たされた個人は大変です。

  • スタイルを選べる人…選べるが故に、どんな状況にたっても「自己責任」。
    • 毎日決まった時間に働くような働き方の柔軟性が低い会社に入社した場合、それは自分で選択したことだ、と自己責任の苦しさがつきまとう。
    • 働き方を選べる柔軟な会社に入社した場合も、自由だが前例のない道を自分で切り拓いていく自己責任の苦しさがつきまとう。
  • スタイルを選べない人…選択肢がないことに対する自己責任の苦しさを味わう。

自己責任、選択の自由が与えられる世界に解き放たれることは、ちょっとレベルが違うかもしれませんが、いわば、制服の学校がある日突然私服の学校に変化するようなイメージです。

 

— (Angela) :なんだか暗い現実ですね(笑)

 

そうですね(笑)。個人は”短期的には”大変です。しかし、長期視点で見たら選べる自由や楽しさを享受できることのほうが良いと思っています。これから人生100年時代と言われます。100年の中で試行錯誤を楽しめる人材を育成していく必要があるのではないでしょうか。

 

— (Angela) :松下先生、今日はありがとうございました!

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