こんにちは、松本です。ヌーラボ京都の伝統となっている「 DIY 研修 」についてご紹介します。ヌーラボでは、新しく入られた方向けの新人研修として、社内で日常的に使うサービスや自分が作ってみたいサービスなどをメンターの方と相談しながら決めて、それを1か月ほどの期間で一から開発するのが最近の通例となっています (例えば、社内の勤怠管理アプリの作成など)。
ヌーラボに新しく入られる方のほとんどは新卒ではないので、研修の目的としては基本的な技術を学ぶのではなく、チームでの仕事の進め方や、ヌーラボがサービスとして大事にしていること、言葉では伝えにくい一緒に働くための文化のようなものを肌で感じてもらうというようなことにあります。
しかし、今回京都メンバーとして入られた小久保さんはチームビルディングやプロダクトマネジメントといった方面に強い方であるので、このような研修を飛ばしてすぐにプロダクトに関わっていただくことになりました。そして、その代わりに、ヌーラボ京都事務所の伝統になりつつある DIY 研修 を通して、ヌーラボの (そして京都事務所の) 文化のようなものを肌で感じてもらおうということになりました。
以前の DIY 研修 ではなにを作ったか
今までの DIY 研修では、丸1日かけて事務所メンバー全員で事務所のリファクタリング (改修や家具の追加) を行っていました。現在の京都事務所は多くの人の助けをもらいながら自分たちで床張りと壁塗りの改修を行った建物なので、まだまだ改善の余地が残っているからです (前回の DIY 研修などの様子はこちらの記事を参照ください)。
今回の DIY 研修 ではなにを作ったか
今回の DIY 研修も事務所の改修を行おうかと考えていたところで、超交流会 2017 の開催のお知らせがやってきました。
これは、京大情報学同窓会が毎年主催している、誰でも参加できるオープンな交流イベントで、ヌーラボは2011年よりブースを出しています。そのノベルティグッズとして、去年は「サルでもわかるGit入門」の git コマンドが刻印された木製のカードをレーザーカッターでつくり、来られた方にプレゼントしていました。
今年のノベルティグッズをどうしようかという話になったときに、ヌーラボの会社のロゴとプロダクトのロゴが新しくなったこともあり、ロゴ入りのグッズを何か配ろうという話になりました。
最近では饅頭、付箋、金太郎飴、あぶらとり紙などといったいろいろなものに企業ロゴなどを入れたオリジナルグッズを簡単に注文することができるようになっています。そこで、最初はそれらのオリジナルグッズの作成サービスを利用しようと思っていました。
しかし最終的には、手作りにしたい気持ちが高まった DIY 隊長の鶴の一声でノベルティグッズとして手拭いを自作することになり、それを DIY 研修にしてしまおうということになりました。
どうやって染めるか?
染めものをしようと決めたは良いものの、染めものを自分で行なったことがある人はメンバーの中には誰もいませんでした。 そこでまず、手拭いに適した染めかたや手順を調べるところから始めました。そして、染料や手法などに様々なものがあることがわかりました。
今回は初めてということもあり、手拭いを染められる方法の中から、道具などが安価に用意できて、かつ、手順が簡単で失敗の少なそうなものという基準から、防染糊 (ぼうせんのり) を使った型染 (かたぞめ) で染めることにしました。
これは染色を防ぐ糊を布に塗ってから、布全体を染料に浸けることで布全体を染料の色に、糊の塗った部分だけを白くする手法です。
今回だと、ロゴを入れるために、ロゴの文字の部分をくり抜いた型紙の上から糊を塗りつけることでその部分だけ染めらないようにすることで、仕上りとしては布全体をロゴカラーにして、ロゴなどを白くすることになります。
デザイナーによる仕上りのイメージとしてはこんな感じになります。もちろん、型を置く場所を変えることで、ロゴや絵の位置も好きに配置できるので、いろいろ試してみようということになりました。
染めるのに必要なものは?
染めかたを決めると、染めるのに必要な材料や道具が決まってきました。
もし、布全体を一色に染めようとするのなら、染める対象となる布 (今回は手拭い) と染料と補助剤 (助剤)、あとは布を漬けておく容器などを用意すればOKです。
今回、染料にはシリアス染料というものを使いました。助剤は染料によって使うものが違ってきたりするようなのですが、今回は染料の色乗りを良くする (染着促進) ためのものと、色を固着させて洗濯などで色落ちさせないようにする (色止め) ためのものとして、それぞれ無水芒硝とタナフィックスNニューを使いました。
今回はロゴを型染で入れるので、上に書かれたものに加えて、
- 洋型紙
- 紗
- 離けい紙
- アイロン
- 浸染用防染糊
- ヘラ
- 温度計
などが必要になりました。これらの使いかたは実際の手順の中で説明していきたいと思います。
染めものにチャレンジ!
型彫り
まずは、会社とプロダクトのロゴのための型をつくっていきます。洋型紙は薄手で、下のものが透けるようになっているので、プリンターでロゴを印刷して洋型紙にテープなどで固定してから線に沿ってカッターで切っていきます。うっすらと見える「nulab」の線に沿ってにカッターを入れていき…
このようにくり抜きました。
紗張り
ちゃんとしたロゴに仕上げるには 「nulab」 の 「a」や「b」などのくり抜かれた部分の位置がずれないようにする必要があります。そのために、完成した型紙の上から紗 (しゃ) と呼ばれる荒めのメッシュ状のシートを貼って、中抜きの型紙の位置を固定させます。また紗には、ヘラで糊を塗りつけるときにめくれたり破れたりするのを防ぐ効果もあります。
今回、洋型紙は糊付きのものを買ってきました。洋型紙の糊の付いている側に紗を広げて、そこにアイロンをかけると、熱で糊が溶けて紗にくっつきます。ただし、紗の上から直接アイロンをかけるとアイロンに糊が付いてしまうので、紗の上にさらに離型紙という糊が付かない紙を載せて、その上からアイロンをかけます。離型紙のサイズはアイロンがかけられるくらいのサイズのものを使います。
わかりづらい写真ですが、この写真の奥でアイロンで紗張りをしています。
なお、くり抜かれたパーツがある場合には、型彫りのときに全てのパーツにカッターを入れてバラバラにします。そして必要な部分だけで組み立て直してから糊面と反対の面にテープを貼って位置を固定させてから、アイロンを当てるようにします。
紗張りを終えた別のゴリラ。
糊置き
手拭いの上に、紗張りを終えた型紙を置き、その上からヘラで糊を塗っていきます。糊をヘラですくって型紙の上に置いてそれを広げていくことで、型紙の切り取った部分に糊が均等にいきわたるようにします。
糊置きを終えたら、糊が取れないようにそっと型紙を外します。
そして、平らな場所にしばらく置いて、糊を乾燥させます。傾いた場所に置いてしまうと、糊が垂れてしまって意図していない領域まで広がってしまう可能性があります。
ちなみに、作った型を使う以外にも、てきとうな袋に糊を入れて生クリームのように絞り出すことで絵や文字を書くこともできます。
浸染 (しんせん、または、ひたしぞめ)
糊を付け終えたら、ようやく染めに入ることができます。鍋に水を入れてから、そこに染料と無水芒硝を入れます。今回はぶっつけ本番でやったので、染料を買ったときに付いていた紙に書かれていた「レシピ」を参考にした適量を入れました。そして、仕上りを見ながら、染める時間などを調整していこうということになりました。
染料の入れた鍋とは別に、お湯を張った容器を用意します。今回使った浸染用防染糊は名前の通り染色を防ぐ糊で、高温の水 (摂氏60度から80度) に漬けていると糊が固くなって防染力が高くなり、反対に低温だと防染力が低く水に溶けやすくなるという性質を持っています。そこで、染料液に漬ける前に手拭いをお湯に浸しておいて糊の防染力を上げておきます。
手拭いをお湯に漬けてしばらく置いておいてから、すぐに染料液の入れた鍋に移し、しばらく漬けておきます。
仕上りの色の濃さは、入れた染料や無水芒硝の量だけではなく、染料液に漬ける時間とその温度あたりも影響するので、適切な時間で上げます。
今回は多くの手拭いを染めることになったので、染料液の温度が下がって糊が溶けないようするために、温度計で温度を見つつ、温度が下がってきたら鍋に火を入れていました。
1、2枚を染めるだけであれば、おそらく火を使わないで、容器に熱湯を入れてから、糊や染料に適した温度が維持できる間にさっと染めてしまう、ということも可能だと思います。
糊落とし
手拭いを水洗い場まで持っていき、水で糊を洗い落とします。水に溶けやすいと言っても厚く塗っているのであまり溶けるように感じません。タワシなどでこすって糊を落としました。
色定着
糊を落としたら、次は色を定着させて洗濯などで色が落ちないようにします。タナフィックスNニューを混ぜた水に手拭いを入れてしばらく置いておきます。
乾燥
もう一度さっと水洗いしてから干します。
自分で使う分にはここでおしまいにしてもいいのですが、乾燥した直後のしわくちゃのままだとノベルティグッズとしては見栄えが悪いのでアイロンをかけました。
ステッカーの色と比べてみました。はじめからプロダクトカラーに似た色を持つ染料を利用したので、わりと近い色のできあがりになったのではないかと思います。
ふりかえり (実際に染めてみた感想など)
「意外にうまくできた」「仕上がりもいい感じにできた」「念願の手ぬぐいが作れた」といった意見がメンバーから出ました。メンバーの中にはお気に入りを自分用に持ってかえる人もいました。
とは言え、出来の細かい部分にはいろいろな課題がありました。
まず、糊置きが難しく、細かい模様などは上手く塗っても型を外すときに剥がれたりしました。型を何回も使っていくうちに型に付いた糊が乾燥してしまい、それが悪影響を及ぼしたり、気付かないうちに意図しない位置に糊が付いてしまっていたりすることがありました。
色付けについても濃淡のしみやムラができたりしました。例えば、このテーブルクロスは遠めではちょっとよさげに見えますが…
こんな風に濃淡のしみやムラができてしまいました。
これは、次のようなことが原因であると考えられます。
- 染色中に剥れた糊が布の別の部分についてしまった (もっと大きな容器を使うしかない?)
- 染料がしっかり溶けてなくてダマになっていて、それが布に付いてしまった (少量のお湯で練り溶かした上で、一旦煮立たせるべきだった)
- 色を薄くするために染める時間を短かくしてしまっていた (染料液を薄めた上で、染めるのにはある程度時間をかけるべきだった)
- 布のしわに沿って濃淡ができてしまった (予め、アイロンでしわを取ったらよかった)
また、染めた直後と乾いた後を比べると色が想像よりも薄くなってしまうので注意が必要です。色の出具合には、水や染料を入れる量や入れている時間などのいろいろな変数がからんでいることが予めわかっていたので、事前に試しておきたかったのですが、それができなかったのは残念でした。
なお、染料が手や服に付いてしまう可能性を考慮して、予めビニールの手袋やエプロンを用意しておいたのですが、ほとんど使う機会がありませんでした。基本的には染料液の入った鍋への出し入れのときの雫の飛び散りにだけ注意していたら大丈夫な上、もともと、色が付いたり汚れたりしても大丈夫な服装で実施していたので、染色以降の工程以外にはそれほど注意を払う必要はありませんでした (一番はじめだけは勝手がわからないので手袋を付けていましたが)。
今回、手拭い60枚、Tシャツ6枚、テーブルクロス1枚を染めるのに1日半かかってしまいました。作業そのものについて、「複数枚つくるのは面倒くさい」「最初は楽しいけど、流れ作業で大量にやるとつらくなってくる」といった意見が出てしまい、1日で済ませられる分量に抑えられたらよかったと感じました。
これ以外に、「次回やるなら数ではなく、最高の一品をつくりたい、そのための色や手法にもっとこだわりたい」といった、次回に向けた意欲的な発言もありました。
気になるお値段は?
あまり細かいことは言えませんが、今回準備にかかった費用から単純に1枚いくらという単価だけで考えると、オリジナル手拭い作成サービスなどで100枚単位で注文したほうが安くなる計算になりました。
しかし、それらのサービスでは1枚ごとに好きなデザインができませんし、手拭い以外の好きなものも染めることもできません。自分たちで染めようとするなら、これらの点に価値を見い出せるかどうかがポイントになるでしょう。
DIY 研修を受けた感想
研修を受けた小久保さんの感想を抜粋したものです。
- 前から刷毛を使ってムラ無く何かを塗ることをやりたいと潜在的に思ってたので、できてよかった
- 途中からなんとなくの分担が自然に進んだ(気がする)
- 蚊が猛威を振るい始める前の季節にできてよかった
- 糊付けすることに夢中になってしまって型紙にあること以上のことをしなかった
- 曇り空で乾くのに時間がかかった
- 鍋がボトルネックになるのでもう一つあると時短になりそう
- 糊が思ったよりねっとりしてて出しにくかったので割り箸的な固いやつを準備したい
- 糊付けするときの台座をしっかり固定すればもっとうまくできると思う
- オリジナルのデザインを何かつくりたい
超交流会2017
そして、 超交流会2017 の開催当日。自分たちで染めたテーブルクロスを敷いた上から、手拭いを沢山並べて準備完了です。ブースに来られた方々に手拭いをプレゼントいたしました。
こちらは、実行委員の方に撮っていただいた一枚。
ヌーラボのことを知らない方からは、手拭いを沢山並べている様子を見て、染めものの会社だと思われてしまう場面もありました。もちろん、中にはヌーラボを知っていてヌーラボのサービスを利用しているという方も数多く来られて、ユーザーの方との交流も行なえた一時でした。
なぜ DIY 研修を行うのか 〜 DIY 研修と DIY 精神
この DIY 研修はただ何かをつくる、ということを意味していません。ヌーラボ行動規範 (Nuice Ways) の6つの要素のひとつ「私たちは自由です」の中に含まれる「Do It Yourself」の精神を、新しく入社された方に触れていただくための重要な研修です。
DIY 研修を1日という短期間で行うことは様々なメリットが良いことがあると考えています。
ウェブサービスではなく、実際のモノを作るので短期間での作業の割りには得られる達成感や満足感が大きいと思いました (去年、私が研修を受けたときの感想です)。
他にも、メンバー全員が短期間に集中してゴールに向かって作業することになるので、一緒に仕事する機会が少ないメンバー同士でも、打ち解けて一体感が得られるようになります。
また、会社のビジネスに関わるプロダクトではない、普段の仕事とはまったく異なった作業をこなすことになるので、パソコンを触っている時とはまた違ったメンバーの一面が見られたりします。
さらに、サービス開発と DIY はまったく関係のない別ものというわけではありません。
DIY でも、完成したモノを得るためには様々な小さな反復作業を繰り返し、その中で失敗したり、それを改善していったりする、ということは自分たちのプロダクトでも行っていることだと思います。ゴールに向けてアイデアを出し会って臨機応変に形にしていくという点も、自分たちのプロダクトづくりに共通する要素があると考えています。
おわりに
「 DIY 研修 おもしろそう!」 と思った方はこちらから応募ください (福岡や東京でも希望すれば DIY 研修ができると思います)。最後になりますが、この研修の実施するにあたって、調査や下準備などに時間をとられても暖かく見守ってくださったヌーラボのメンバーみなさまに感謝いたします。